研究領域 | 分子アーキテクトニクス:単一分子の組織化と新機能創成 |
研究課題/領域番号 |
16H00954
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐々木 孝彦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20241565)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 物性実験 / 有機導体 / 強相関電子系 |
研究実績の概要 |
平成28年度は,本研究課題実施に必要となるバイアス電圧,電流印加状態での抵抗ノイズ測定系の構築とそのテストを中心に行った.物品費において矩形パルス電圧,電流を印加することができる電流電圧源を導入し,まずパルス電圧電流印加状態での抵抗測定による非線形伝導測定が可能となる回路設計,測定系を構築した.テスト試料として電荷秩序絶縁体α”-(BEDT-TTF)2RbCo(SCN)4,ダイマーモット絶縁体β’-(BEDT-TTF)2ICl2を用いてパルス高電流,高電圧印加による非線形伝導測定および非線形伝導状態でのノイズ測定を行い,構築システムの評価を行った.現在のところパルス電流,電圧印加時にノイズ測定精度を上げるために印加時間(高電流・高電圧状態保持時間)を長くすると試料抵抗による自己発熱(ジュール発熱)の影響がデータに現れ,これを補正することに困難がある.パルス時間と測定精度の最適化の検討が必要である. プロトン-強相関パイ電子複合系の物質として対象とするκ-H3(Cat-EDT-TTF)2およびこの重水素置換体の赤外分光測定を行い,2つのCat-EDT-TTF分子間をつなぐプロトンの運動を分子振動観測により直接とらえることを試みた.単結晶試料サイズが極めて小さいために,実験室系分光器光源(グローバー光源)では十分に微小領域に集光できないため,放射光光源の良直線性を利用した放射光赤外分光測定を大型放射光施設SPring-8において中赤外領域で行った.2分子間の酸素―プロトン結合に起因するブロードな振動バンドを観測することができた.本物質では研究代表者らにより低温でプロトン運動のダイナミクスに量子トンネル効果が表れ,誘電率に量子常誘電的振る舞いが観測されている.このプロトン運動の量子トンネル効果が赤外振動分光に現れる振動スペクトルのブロードな形状に現れていると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に予定していたノイズ測定系の構築とパルス電流・電圧印加状態での測定を可能とする改良,およびその性能評価については計画通りに順調に実施することができた.また,本課題で対象とするプロトン-電荷協奏系におけるプロトン搖動によるノイズ発生・検出に関連して,予備実験物質系における非線形伝導下での電荷ダイナミクスをノイズとして捉えられることを試みた.さらに2分子間プロトン-酸素結合における分子振動と電荷移動の結合の存在を赤外分子振動分光実験から確かめた.このような成果から本課題は順調に進捗していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
本課題で対象とするプロトン-強相関パイ電子協奏系物質κ-H3(Cat-EDT-TTF)2は,低温で量子スピン液体状態が示唆されているが,プロトン搖動との関係は明らかでは無い.最近,プロトンが局所構造的に量子トンネルすることによる量子常誘電性が見出されている.この量子常誘電性は,電荷・スピンと結びついて非自明な量子スピン液体を実現している可能性がある.この量子常誘電状態に対して高電圧を印加するなどしてプロトンダイナミクスを変調することで電荷-スピン-プロトントンネルの複合した結合をとおして2分子間電荷ダイナミクスに影響を与えると考えられる.これにより量子スピン液体‐量子常誘電の強秩序化などが期待でき,この変化をプロトン搖動ダイナミクスに起因する電荷応答ノイズとして探索することができる可能性がある.このために計画通りにノイズ測定を本課題で遂行するとともに,外場印加状態での誘電率,赤外分子分光などを実施していく.
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