公募研究
本研究の目的は、光学系におけるトポロジカル相を活用することにより、光ダイナミクスの制御を行うための理論手法を確立することである。光学系では、電子系とは異なり、フォトンまたはレーザー光強度の減衰や増幅の制御が可能である。そこで、減衰・増幅の効果を取り入れた1次元量子ウォークに対する、非ユニタリーな時間発展演算子のトポロジカル相について調べた。その結果、非ユニタリーな系においても、PT対称性という特殊な対称性がある場合、トポロジカル相に由来するエッジ状態が現れることが分かった。さらにこのエッジ状態は、他のバルク状態と比較し、大きな正の虚数エネルギーを持つことが分かった。このことを反映し、減衰の効果が非常に強い系においては、パラメーターによって、バルク状態の成分は時間と共に急速に減衰するが、エッジ状態の成分はほとんど減衰しないことが明らかとなった。この結果を用いると、系に光を入射すると、エッジ状態に対応するエネルギー成分のみを選択的に系に残すことが可能であることが期待される。さらに、上記理論結果を実験的に検証するため、減衰の効果が強い量子ウォークの実験を、実験グループとの共同研究として行った。実験では、減衰の効果を高精度に制御することが可能な光学系を組み、さらにエンタングルしたフォトンを入射した。その結果、エッジ状態の成分のみを選択的に系に残すことなど上記理論予測と非常に良く一致する結果を得た。またこの実験結果は、PT対称な非ユニタリー系における量子効果を実験により調べた初めての結果としても重要である。また、トポロジカル相が動的に変化する系におけるエッジ状態の安定性に関する予備的な研究を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
減衰効果のある量子ウォークの研究に関しては、本年度中に関連する論文がPhysical Review A誌やInterdisciplinary Information Sciences誌に掲載済である。また、エッジ状態の制御に関する理論論文と実験論文もすでに投稿しており、現在査読中である。特に、計画段階では実験グループへの理論提案を行うこととしていたが、共同研究として実験研究にも主体的に加わり、非常に重要な実験結果を得た。このことから、本研究は、当初の計画以上に進展していると考える。
現在のところ研究は非常に順調に推移しているため、減衰効果の量子ウォークに関しては、さらに研究発展させる方向で研究を推進していく。さらに、トポロジカル相が動的に変化する系におけるエッジ状態の安定性に関する研究を行う。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 14件、 招待講演 7件)
Interdisciplinary Information Sciences
巻: 23 ページ: 95-103
10.4036/iis.2017.A.12
Physical Review A
巻: 93 ページ: 062116:1-13
10.1103/PhysRevA.93.062116