研究領域 | トポロジーが紡ぐ物質科学のフロンティア |
研究課題/領域番号 |
16H00982
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
増渕 覚 東京大学, 生産技術研究所, 特任講師 (50596195)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | グラフェン / 量子ホール効果 / バンド構造変調 / ファンデルワールスヘテロ構造 / サイクロトロン共鳴 |
研究実績の概要 |
●本研究は、二枚のグラフェンを結晶方位をずらして重ねたTwisted二層グラフェンのバンド構造を、輸送特性測定(電子波干渉効果・磁気輸送特性・中赤外光応答)の観点から解明することを目的としている。2016年度はまず、ランダウ準位構造を実験的に明らかにすることを目的として、磁気抵抗測定および中赤外光応答測定を行った。同時に二層・三層グラフェンについても同様の手法によってより深く調べることで、ランダウ準位における電子・ホール非対称性を反映した中赤外光応答ピーク・面内磁場により誘起されるランダウ準位間の反交差を観測した。Twisted二層グラフェンと単層グラフェン・二層グラフェンを比較することで、ランダウ準位の構造を実験的に解明しvan Hove特異点におけるLifshitz転移を観測することができた。さらにサイクロトロン共鳴によるTwisted二層グラフェン特有の中赤外光応答ピークを初めて観測することに成功した。結晶方位をTwistして重ねた二層・単層グラフェンにおいて、モアレ超格子の導入によるバンド構造変調・およびHofstadter’s Butterfly構造の観測に成功した。 ●本新学術領域内における共同研究にも着手した。本研究で用いる機械的剥離法を用いて、計画B班の柏谷グループと薄層WTe2試料の磁気輸送特性測定を行ったところ、WTe2試料において報告されている磁気抵抗比を上回る巨大磁気抵抗効果が観測された。 ●新学術領域研究におけるアウトリーチ活動として、中学生(12名)を対象とした原子層剥離講習会を開催した。層状化合物の結晶構造と劈開性について理解を深め、2010年度ノーベル賞の端緒となった実験手法の体験を通じて、先端の科学研究をが原始的な手法によっても可能であることを伝えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において提案したTwisted二層グラフェンにおいて量子ホール効果・中赤外光応答の測定を進め、上記の結果を得た。加えて、新学術領域研究において重要となる領域内共同研究に着手し、計画B班と共同でWTe2の磁気輸送特性の評価を行い、巨大磁気抵抗効果観測に成功した。アウトリーチ活動として、中学生を対象とした原子層劈開講習会を開催できた。当初の研究・共同研究・アウトリーチ活動の3点を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度の研究で得られた知見をもとに、Twisted二層グラフェンにおけるHofstadter’sButterfly構造・量子容量測定による電子状態密度の決定を目指す。電子状態密度の決定に向け、初期的な実験として、薄層化した六方晶窒化ホウ素を、二層グラフェンと単層グラフェンにより挟み込んだコンデンサー構造の作製と輸送特性測定に成功している。単層グラフェンの電荷中性点は電子状態密度がゼロになるため、電界によるフェルミエネルギー変調が増大することから、単層グラフェンの輸送特性測定によって、近接する二層グラフェンの電子状態密度の精密決定が可能となる。本測定を磁場中において行うことで、ランダウ準位構造のさらなる解明を進める。さらに、計画B班柏谷グループとの共同研究を推進する。単原子層まで薄層化したWTe2試料の磁気抵抗効果測定を実現することによって、理論的に予想されている二次元トポロジカル絶縁体としての物性を発現させることを狙う。二次元トポロジカル絶縁体を層状化合物により実現することができれば、超伝導体・強磁性体材料とヘテロ接合構造を組むことにより、マヨラナ粒子など、トポロジーが鍵となる新規量子物性相の発現に繋がることが期待される。また、2016年度に開催した原子層劈開講習会の内容を「社団法人子供の理科離れをなくす会」の協力のもと、全国の中学生・高校生に向け展開を行う。
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