公募研究
本研究ではトポロジカル結晶絶縁体SnTeの単層単結晶薄膜の作製を狙い、更にそれと超伝導体との接合を作製し、界面で生じる新奇物理現象を観測することを目標としている。従来、SnTe単結晶薄膜は絶縁体上へのラフネスの少ない単結晶薄膜作製が極めて難しく、10nm程度以下の薄さにすることが困難であった。またSn欠陥誘起のホールが著しく生じ、自然とヘビーなp型になるため、フェルミ準位がバルクバンドと重なり、電気伝導や角度分解光電子分光(ARPES)による表面状態観測が困難であった。単層SnTeについては理論計算から2次元トポロジカル結晶絶縁体になることが予想されているが、それらの結晶成長上の理由から実現が難しいとされていた。我々はまず、SnTe下地層のダングリングボンドをなくすため、用いる基板・下地層をSi(111)上の√3×√3-Bi構造にした。その結果、面方位が(001)のSnTe単結晶が成長した。そして従来多く用いられている基板であるBaF2に比べて表面ラフネスは1/10程度に減少した。また、リチウムのドーピングによってホールキャリアの補償にも成功し、SnTeでは報告されていない、抵抗の半導体的な温度依存性を実現した。そして、低温ではシュブニコフドハース振動も観測できたため、弱反局在効果と併せて今後より一層物性を解明することができると期待される。また、SnとPbの組成比を動かすことでPbSnTeにおいて電気的特性を変化させることにも成功した。またこの試料にSbをドープすると、有意にバルクキャリアが低減し、やがてn型になった。ARPESによってそれらの試料を観測したところ、入射フォトンエネルギーに依存しない2次元バンドの観測に成功した。これはトポロジカル表面バンドと考えられ、p型のために従来困難だった表面バンドの観測に成功したといえる。
2: おおむね順調に進展している
本来は√3×√3-Bi上にSnTe単層の成長を目指したが、単層が簡単にはできないため、表面ラフネスの改善の観点から研究に取り組んだ。ただそれでも、従来よりも大幅に薄い膜の作製に成功した。そしてそれらの試料において表面状態を電気伝導測定で弱反局在効果の観測を通じて確認した。また成長条件最適化に加え、電気特性の詳細な調査、ARPES観測など多岐にわたってSnTe中心物質の物性解明を着実に進めている。
SnTeの良質な単結晶薄膜作製には成功したので、今後はその上に様々な物質を積層して、トポロジカル(結晶)絶縁体/超伝導体などの作製に取り掛かる。トポロジカル(結晶)絶縁体と超伝導体の接合面付近にはマヨラナ粒子が出現することも理論的に予想されている。また、超伝導ギャップ中に有限の状態密度をもつような非従来型の超伝導、トポロジカル超伝導状態も実現できれば、まだ未解明な点の多い同物質群についてトポロジカル結晶絶縁体を用いることによって新たな観点を得られると期待される。トポロジカル超伝導体としては接合作製のほかに、他族元素のドーピングも視野に入れている。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 謝辞記載あり 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 9件、 招待講演 5件) 備考 (3件)
arXiv
巻: 1701.0393 ページ: -
巻: 1701.00137 ページ: -
Physical Review B
巻: 95 ページ: 014417-1-6
10.1103/PhysRevB.95.014417
Journal of Crystal Growth
巻: 453 ページ: 124-129
10.1016/j.jcrysgro.2016.08.027
http://researchmap.jp/rakiyama/
https://www.researchgate.net/profile/Ryota_Akiyama
http://www-surface.phys.s.u-tokyo.ac.jp/