研究領域 | トポロジーが紡ぐ物質科学のフロンティア |
研究課題/領域番号 |
16H00984
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松尾 貞茂 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90743980)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超伝導 / アンドレーエフ反射 / 量子ホール状態 / マヨラナ粒子 / ヘリカル状態 / トポロジカル絶縁体 / 量子ホール状態 |
研究実績の概要 |
トポロジカル絶縁体の発見を契機に、固体物性においてトポロジカル相の物性研究が活発に行われている。その中でも、超伝導体とトポロジカル絶縁体の接合はマヨラナ粒子の実現が予言されていることもあり、非常に注目を集めている。本研究では、この超伝導体とトポロジカル絶縁体の接合系の電子輸送特性におけるスピン依存性を明らかにすること、とくに、量子スピンホール状態のヘリカル端状態でのクーパー対分離と量子ホール状態でのスピン三重項超伝導近接効果の存在を実証することを目的に研究を行っている。 超伝導体とヘリカル端状態の接合に関して、量子スピンホール状態を示すと期待されているInAs/GaSbの二層量子井戸から作製したホールバーデバイスの測定を行った。その結果、ゲート電圧による制御ができないほど電子密度が大きすぎることがわかった。加えて、他グループによるトリビアルな端状態の存在の実証が報告され、2次元トポロジカル絶縁体の特徴であるヘリカル状態の研究に適さないと結論付けた。そこで半導体量子細線で人工的にヘリカル状態を作製することで、上記の研究目的を達成することを試みることとした。この目的に向け、エピタキシャル成長された超伝導体半導体基板の微細加工技術の確立を行い、コルビノ型のジョセフソン接合デバイスを作製して測定を行った。その結果、超伝導電流が流れること、そのゲート電圧による電解制御を実現した。また、コルビノ型のジョセフソン接合に特徴的な磁場依存性の観測にも成功した。 また、超伝導体とトポロジカル絶縁体の一種である量子ホール状態との接合系において、スピン分裂した量子ホールバルク状態と超伝導体との接合でアンドレーエフ反射が起きることを実験的に明らかにした。これは界面でのスピン反転家庭を介してアンドレーエフ反射が起きることを意味しており、当初計画にあるスピン三重項超伝導近接効果の存在を示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、超伝導体と2次元トポロジカル絶縁体との接合におけるスピン依存伝導特性を明らかにすることを目的としている。まず、ヘリカル端状態でのクーパー対分離現象の観測については、ホールバーデバイスの測定の結果、量子スピンホール状態でヘリカル状態の輸送特性を得ることが困難であることがわかったため、このヘリカル状態を半導体量子井戸において磁場印加で実現し、そこでのクーパー対分離現象の測定を行おうとしている。現在までに超伝導接合の形成とゲート制御が行えるまでに至っている。これは来年度に磁場を印加した状態での超伝導体量子細線(ヘリカル状態)接合におけるクーパー対分離の観測を行うための基盤技術が確立されたことを意味しており、非常に意義深い。 また、超伝導体とスピン分離した量子ホール状態との接合においてアンドレーエフ反射の観測に成功した。この結果は、スピン分離した量子ホールバルク状態にスピン三重項超伝導近接効果がおきていることを示唆する結果であり、半導体超伝導体接合におけるスピン三重項超伝導近接効果の兆候を初めて観測した結果であるとともに、将来的な超伝導体量子ホール状態の接合におけるマヨラナ粒子実現につながる結果であるため、意義深いものである。
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今後の研究の推進方策 |
まず、ヘリカル端状態と超伝導体との接合におけるクーパー対分離現象に関しては、エピタキシャル成長された超伝導体と半導体の量子井戸基板から超伝導体と量子細線の接合デバイスを作製し、クーパー対分離現象の観測を行うことを目指す。その後、磁場を面内方向に印加することで量子細線中にヘリカル状態を実現し、そこでのクーパー対分離現象の観測を行う。 超伝導体と量子ホール状態との接合に関しては、より高品質な超伝導接合を形成することで、量子ホール端状態と超伝導体での接合デバイスにおけるスピン三重項超伝導近接効果の実現を目指す。高品質な超伝導半導体接合は上記のエピタキシャル成長超伝導半導体基板から形成可能であるが、この基板は移動度が低く、スピン分離した量子ホール状態を実現するために高磁場を必要とするため、超伝導体と量子ホール状態との接合デバイスの実現には不向きである。したがって、従来使用していた量子井戸基板と超伝導体との接合品質の向上を行う。その後、スピン分離した量子ホール端状態での超伝導電流の観測を行うことをめざす。
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