研究領域 | トポロジーが紡ぐ物質科学のフロンティア |
研究課題/領域番号 |
16H00987
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
那須 譲治 東京工業大学, 理学院, 助教 (40610639)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 物性理論 / 量子スピン液体 |
研究実績の概要 |
本研究では、量子スピン系において実現する特異な量子状態の一つである量子スピン液体に関して特に素励起として実現する創発的マヨラナ粒子とそのバンド構造のトポロジカルな側面から理論研究を行った。特に本研究では、キタエフ模型と呼ばれる量子スピン模型に着目し、その模型をモンテカルロ法を用いて解析することで、以下の2つの研究成果を得た。 (1) 有限温度におけるラマンスペクトルと計算し、その強度の温度変化に創発マヨラナ粒子の統計性が反映されることを見いだした。また、これまでルテニウム化合物において行われてきた実験研究と比較することで、その実験結果と本研究で得られた理論計算の結果がよい一致を示すことがわかった。この結果は、現実の物質において、スピンの自由度が分数化して生じた創発マヨラナ粒子の存在を示唆するものである。 (2) 量子スピン液体における熱伝導度を計算し、創発的マヨラナ粒子がどのように熱を運ぶかを調べた。熱伝導度の縦および横成分にスピンの自由度が創発的マヨラナ粒子へと分数化した形跡が強く表れることを見いだした。特に、横成分、すなわち熱ホール係数は、磁場の印加によって創発的マヨラナ粒子系がトポロジカルに非自明なバンド構造を形成することに起因して有限となり、特異な温度依存性を示すことがわかった。 上記の研究成果は、量子スピン液体における励起としてのマヨラナ準粒子を実験的に捉える観測方法を提案するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度においては、量子スピン液体における特異な励起構造であるマヨラナ準粒子に着目し、それがどのように物性に表れてくるかを明らかにしてきた。特に、実際に観測可能な物理量であるラマンスペクトルや縦および横の熱伝導度を計算することで、マヨラナ準粒子の特徴を見いだしてきた。この中でも熱伝導度の横成分はマヨラナ準粒子系のトポロジカルな側面を理解する上で重要であり、その計算と理解が進展したことから当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、純粋なキタエフ模型におけるダイナミクスと熱伝導度に関して解析を行ってきた。今後は、ハイゼンベルク相互作用など他の相互作用を導入したときに、どのようにこれらの物理量が変化するかを明らかにしていく。また、マヨラナ準粒子の作るトポロジカルな性質と磁場依存性にも着目し、これまで用いてきたモンテカルロ法だけではなく、計算機を駆使した数値対角化法など他の計算方法を併用することで、量子スピン系が示すマヨラナ準粒子を見いだしていく。
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