本研究は、B01「トポロジーと対称性」実験班と連携し、光電子分光で得られたトポロジカル物質の電子構造を解明することを目的として、様々な物質の第一原理電子状態計算を遂行した。研究は予定通りに進んでおり、H29年度はディラック半金属であるZrSiS類似物質を中心とした光電子分光との共同研究を行った。ZrSiSは自然界にも存在する無毒の物質であり、三元化合物のため類似物質として様々な原子の組み合わせが考えられ、トポロジカル物性を開拓するためには格好の舞台となる。光電子分光実験では先行してHfSiSで特異な表面バンドが観測されているが、そのバンドが何に起因している状態であるかは不明であった。今回、新たに測定されたZrGeS、ZrGeSe、ZrGeTeのバンド構造と電子状態計算で得られたバルク結晶のバンド構造を比較することによって、特有の表面バンドがディラックノードアークと呼ばれる新しいタイプのトポロジカル表面状態であることを明らかにした。また、TaSe2基板上のビスマス薄膜について電子状態計算を行い、膜厚によってビスマスの構造がBi(111)ハニカム構造からBi(110)黒燐構造に変化することを確かめ、トポロジカル物性、CDW近接効果などについて議論を行った。これらの共同研究と並行して、理論先行の新物質開発を行い、トポロジカル物質同士のヘテロ接合を想定したシミュレーションを進めた。具体的には、代表的なトポロジカル絶縁体であるBi2Se3とBi2Te3を組み合わせたBi2-xSbxTe3-ySeyを考えて、積層構造を変化させることによってトポロジカル表面状態であるディラックコーンのエネルギー制御を行った。その結果、ディラックコーンがエネルギーギャップ中に現れる理想的な積層パターンが得られた。これらの結果は学術論文に投稿予定である。
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