本研究は、トポロジカル超流動体である擬2次元超流動ヘリウム3-A相薄膜に期待されるカイラルエッジ流もしくは巨視的軌道角運動量を実験的に検証し、トポロジー物質科学の発展に資することを目的とする。2次元ヘリウム3-A相薄膜は時間反転対称性が破れたカイラル超流動体であり、その縁にマヨラナ束縛状態が存在し、マヨラナ粒子の寄与を持つカイラルエッジ質量流が流れることが、本研究連携研究者の堤らによって理論的に予言されてきた。本研究では、膜厚1μmの擬2次元A相薄膜にオーダーhN/2(hはディラック定数、N/2はヘリウム3試料中クーパーペアの数)で生じうるカイラルエッジ流の直接観測をめざす。これを観測するために、超精密マイクロ機械加工で作成された円盤状空間を持つねじれ振動子に生じるカイラルエッジ流由来のトルクを、超伝導SQUIDを利用した微小変位測定装置で観測することを試みる。 平成29年度は、まず前年度に引き続いて実験装置の準備を進めた。前年度に問題となった円盤状空間の酸化の問題は新たに円盤容器を製作して真空保存することで解決した。その後ねじれ振動子全体のアセンブルを完了した。 SQUID変位検出系以外の準備が完了したので、超流動ヘリウム4を用いた予備的測定を試みた。しかしねじれ振動用ワイヤーの張力が高すぎたため、冷却における熱収縮によりワイヤーが破損する事故があり、その修復に数ヶ月を要した。現在、熱収縮の問題を解決して予備的実験を進めている。これを完了後、SQUID変位計を準備して超流動ヘリウム3を用いた測定を試みる予定である。
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