本研究は、研究代表者らが最近見出した新規で有用な化学選択性を発現する触媒システム、すなわち「無保護アミノアルコールのアルコール選択的酸化」を常温・常圧の大気下という温和な条件下で実現するAZADO-Cu協奏触媒への精密機能修飾を機軸として、分子複雑系における高難度アルコール選択的空気酸化反応の開発を行うとともに、その合成化学的有用性を実証することを目的とするものである。 計画研究の2年目に当たる平成29年度は、前年度までに見出していた不斉配位子複合型ニトロキシルラジカルによる第2級アルコールの酸化的速度論的光学分割のエナンチオ選択性発現機構の理解と選択性の向上を目指して検討を行った。 現時点で90% eeという不斉収率を与えるtrans-2-フェニル-1-シクロヘキサノールを基準基質として、その分子骨格を変化させた基質について検討行った。相対立体配置をcisとした基質ではエナンチオ選択性が発現せず、シクロヘキサノール2位の置換基については、アルキル基、エーテル基、エステル基が許容であることが判明した。驚くべきことに、シクロペンタン骨格とした基質では反応が全く進行せず、反応後に原料が回収されたことから、厳密な基質認識が行われていることが示唆された。鎖状アルコールでは、水酸基のβ位に嵩高い置換基を有する場合に、中程度のエナンチオ選択性で分割されることが確認された。これらの新知見をもとに、不斉配位子複合型ニトロキシルラジカル-Cu協奏触媒の反応機構モデルを構築して計算化学の観点から検証を行い、基質適用性の拡大とエナンチオ選択性向上に資する有望な触媒設計指針を得ることができた。
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