研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
16H01002
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
市川 淳士 筑波大学, 数理物質系, 教授 (70184611)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | β-フッ素脱離 / 結合活性化 / 触媒 / 銀 / トリフルオロメチルアルケン / 有機フッ素化合物 / インドール / 多環式芳香族炭化水素 |
研究実績の概要 |
炭素-フッ素結合の切断手法として、一般に低原子価金属への酸化的付加が使われるものの、その結合エネルギーが大きいことから困難な過程とされている。これに対して、α-フッ素脱離およびβ-フッ素脱離に着目し、新たな結合生成反応(炭素-フッ素結合活性化)を検討している。まず、スルホンアミド基を有するジフルオロスチレンのビニル位炭素-フッ素結合活性化を経る5-endo-trig環化を利用して、フルオロインドールの簡便合成法を開発した。ここでは、これまでに前例のない銀触媒によるβ-フッ素脱離を利用して炭素-フッ素結合の切断を可能にした。また、トリフルオロメチルアルケンとジセリオビアリールの反応により、アリル位・ビニル位炭素-フッ素結合活性化を経るフルオロシクロヘプタトリエンの位置選択的合成に成功した。この反応では、SN2’型反応およびSNV反応を連続的に行うことで、二本の炭素-フッ素結合を切断して二本の炭素-炭素結合を形成し、炭素7員環の構築を達成した。また我々は、ビアリール置換基を有するフルオロナフタレンの芳香族炭素-フッ素結合活性化による多環式芳香族炭化水素(PAH)の骨格構築にも成功した。同一の基質から二種類のアルミニウム化合物を用いて異なる経路で環化を行い、縮環位置の異なるベンゾトリフェニレンの作り分けを達成した。いずれの場合においても、穏和な条件での炭素-フッ素結合活性化を実現し、高効率分子変換法の開発につながった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遷移金属を用いるβ-フッ素脱離では、一般に酸化的付加に比べて穏和な条件で炭素-フッ素結合を切断できるが、これまで合成反応にあまり用いられてこなかった。平成28年度に、β-フッ素脱離を活用したビニル位、アリル位、および芳香族炭素-フッ素結合の活性化法を種々確立することができた。ここでは、β-フッ素脱離を鍵過程としてこれまでにない骨格構築法を実現したため、本研究課題は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
β-フッ素脱離を用いたフルオロアルケンやフルオロアレーンの炭素-フッ素結合活性化反応をさらに展開し、従来法では合成が困難であった含フッ素化合物の汎用的合成法を確立する。また、α-フッ素脱離を用いる新規炭素-フッ素結合活性化にも挑戦する。さらに、合成した含フッ素化合物の医農薬や材料への応用を期待して、それらの生理活性や半導体特性も探る。
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