フルオロアルキル基は医農薬や機能性有機材料分野において有用な構造モチーフである。フルオロアルキル基を安価で入手容易なフルオロアルキル源を用いて有機骨格に導入する手法の開発は合成化学において重要な課題の一つである。本研究では、可視光誘起電子移動を基盤としたフォトレドックス触媒作用に着目し、本課題に取り組んだ。とくに、強力な電子求引性を有するペンタフルオロサルファニル基に着目し、励起状態で高い酸化力を有する金属錯体光触媒を創製し、安価なフルオロアルキル源を用いた新しい光触媒的フルオロアルキル化反応の開発を目的に行った。 昨年度までに、ペンタフルオロサルファニル基を有するイリジウム光触媒を合成し、既報のイリジウム金属錯体光触媒よりも励起状態で酸化力が高いことを明らかにした。本年度はおもにこの光触媒を使って新しいトリフルオロメチル化反応の開発に取り組んだ。ラングロア試薬とよばれる比較的安価なスルフィン酸ナトリウム塩をトリフルオロメチル源とする反応を検討した結果、アルケン類に対して、トリフルオロメチル基とスルフィン酸基を一段階で導入できるスルホニル-トリフルオロメチル化反応を見出した。このような形式の反応はこれまで報告がない。スルホニル基は様々なスルホン基に誘導可能であり、本反応によって得られる有機フッ素化合物の物性にも興味がもたれる。本反応は、光触媒の高い酸化力に起因して中間体のラジカル種が安定化された結果進行したと考えられる。光触媒の反応性をチューニングすることで新たな反応を開発することができた。
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