研究実績の概要 |
水系での触媒として有力なものが酵素である。酵素は常温常圧下といった温和な条件下において非常に高難度な反応を触媒するものが多数知られており、合成化学などへの応用が期待されてきた。しかし、一般的に酵素は不安定であり、化学工業展開に期待される反応を触媒するものもあまり見つかっておらず、そのままでは利用できない場合がほとんどである。このような問題を解決するため、遷移金属錯体の反応性とタンパク質の反応場としてのポテンシャルを巧く組み合わせた「人工金属酵素」が数多く研究されており、合成された錯体はタンパク質に導入されることで分解を免れ水系でも触媒活性を維持できる。このように今後の工夫次第で従来達成が困難であった高難度物質変換反応の確立も期待されている 本年度、我々はこれらとは全く異なる独自のタンパク質-金属錯体をもとにバイオ触媒を構築してきた。金属結合部位を立体構造に基づき最適化した(4つのヒスチジンからなる金属結合位を持つ)耐熱性cupin型(小樽状)タンパク質と第4周期の遷移金属はもちろん、白金族元素イオン (Ru, Rh, Pd, Os, Ir, Pt)を高温で反応させて直接錯化することに成功し、この貴金属錯体が驚異的な安定性を示すことを明らかにした。この結果をさらに押し進め、このタンパク質金属錯体を合成系に展開した。特にOs結合型ではオレフィンのジオール化反応において、触媒回転数(TON)9000以上を観測し、位置選択性がみられた。
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