末端アルケンやアルカンなどの炭化水素の末端部位を選択的かつ効率的に窒素または酸素官能基化できれば,第一級アミン・アルコール・エーテル・アルデヒドおよびその誘導体等の工業的・合成化学的に有用な合成法となり得る。末端アルケンへの求核剤の逆マルコフニコフ型付加反応の可能な反応機構の一つとして,遷移金属に配位した末端アルケンに対する求核剤の末端炭素側への攻撃(逆マルコフニコフ型求核攻撃)およびそれに続くPd-C(sp3)結合のプロトノリシスを経る機構が考えられる。この機構を段階的な量論反応として実現させるべく,アルケニルホスフィンが配位したカチオン性のパラジウム錯体に対する種々の窒素および酸素求核剤の反応性を検討した。その結果,窒素求核剤として2-ピリドン類を反応させた場合に配位アルケン部位への逆マルコフニコフ型求核攻撃が進行してアルキル錯体が生成した。このアルキル錯体からPd-C(sp3)結合のプロトノリシスを経て,アルケン部位に2-ピリドン類のN-H結合が逆マルコフニコフ付加した構造を含む錯体が生成し,よって段階的な逆マルコフニコフ型付加反応が達成された。窒素求核剤として2-ピリドンに代えて3-ヒドロキシピリジンおよび4-ピリドンを用いた場合には,求核攻撃までは進行するがプロトノリシスは全く進行しなかったことから,2-ピリドンの2位の酸素官能基がプロトン供与部位となり,六員環型遷移状態を経ることで通常は進行しづらいPd-C(sp3)結合のプロトノリシスを促進すると考えられる。特にこのプロトノリシスが鍵段階であり,今回得られた知見に基づいて,今後は触媒反応への展開および他の窒素求核剤・酸素求核剤への基質適用範囲の拡大が期待できる。
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