従来の金属イオン含有バイオ触媒の開発研究においては、金属配位部位の構造最適化によって標的とする触媒機能の開発が行われてきた。しかし、タンパク質を基盤とする場合、生体高分子としてのタンパク質構造の動的効果を利用すれば、外部刺激によって反応場変換が可能なバイオ触媒が創成できる。前年度において、核酸分子の結合によって大きな構造変化を示すアデニル酸キナーゼ変異体(A55C/C77S/V169C)の2カ所のシステイン残基に、Co(II)サレン錯体を導入したところ、遷移状態アナローグであるAp5Aの結合によってタンパク質がCLOSED状態となった際に、金属錯体同士の相互作用が発現することが見いだされた。そこで、本年度は、2つの金属中心の相乗効果の有無による触媒反応制御を試みた。対象として、スチレンオキシドのエポキシドの開環反応を検討した。本反応系においては、1つの金属中心がエポキシドの酸素原子への配位を担い、もう片方の金属中心が水分子の活性化を行うことを想定している。反応条件として、pH = 7.0から9.0までの範囲においては、pH = 7.5において、最も高い触媒活性が見られた。この結果は、Co(II)のルイス酸性により、基質の配位、水の活性化の影響が最大になる条件であると考えられる。また、CLOSED状態においては、錯体同士が離れているOPEN状態よりも、高い触媒活性が観測された。以上の結果は、本バイオ触媒の分子設計の妥当性が示され、「タンパク質ダイナミクス」に基づくバイオ触媒の開発アプローチが学術的に意義のあるものとして提案できた。
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