研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
16H01038
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
竹本 真 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20347511)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光触媒 / メタロホスフィン / 二核錯体 / ルテニウム / ロジウム / イリジウム / ホスフィド / パラジウム |
研究実績の概要 |
反応活性点となる金属中心の近傍に可視光吸収部位を持つ遷移金属錯体は、新たな光触媒となる可能性に興味がもたれる。ビスビピリジンルテニウム(II)フラグメント(bpy)2Ru(II)は、優れた安定性と可視光吸収特性を示すため、このような錯体における可視光吸収部位として注目されている。ホスフィド錯体LxM(PR2)yは、金属部位が置換基となったホスフィンとみなすことができる。我々は、(bpy)2Ru(II)部位を有する初めてのメタロホスフィン配位子[(bpy)2RuCl(PR2)] (RL1)および[(bpy)2Ru(PR2)2] (RL2)を設計し、これらの配位子を導入した様々な遷移金属錯体の合成とその反応性および触媒活性の調査を行っている。水の光分解や芳香族トリフルオロメチル化反応など、熱的には進行しにくい有用反応を、可視光を駆動力とすることで実現可能とすることを目標にしている。本年度は、これらのメタロホスフィン配位子を有するRh, IrおよびPd錯体の合成に成功し、その構造の詳細をX線構造解析等の手法により明らかにした。さらに、錯体の電子状態および吸光挙動について、理論計算および吸収スペクトル等の測定により有用な知見が得られた。また、合成したRhおよびIr錯体がニトリルの水和反応やジエン類の選択的水素化反応に触媒活性を示し、その活性が可視光照射により向上することも見出した。今後、これらの触媒反応をより詳細に調査するとともに、新たな錯体の合成および新たな触媒反応への応用について引き続き研究を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、ルテニウムビピリジンメタロホスフィン配位子を有するRh, IrおよびPd錯体の合成に成功し、また、RhおよびIr錯体については、ニトリルの水和反応やジエン類の選択的水素化反応に触媒活性を示し、その活性が可視光照射により向上することも見出した。一方、Pd錯体については芳香族ハロゲン化物の触媒的トリフルオロメチル化反応を開発する予定であったが、期待した反応の実現には至らなかった。Pd(Ar)(CF3)錯体からの還元的脱離が進行しにくいことが原因である。来年度はPd錯体のかわりにNi錯体を合成し、この問題の解決を図る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに、Pd(II)からのPhCF3の還元的脱離を可視光により促進させることを狙って[(PhL2)Pd(Ph)(CF3)]を合成した。この錯体からの可視光照射下でのPhCF3の還元的脱離を検討したが、その観測には至らなかった。今後、三配位中間体からの還元的脱離が有利なパラジウム錯体とは異なり、五配位中間体を経る会合機構による還元的脱離を起こすことが期待される[(PhL2)Ni(Ph)(CF3)]の合成に取り組む。
また、PhL2を配位子とする新規なパラジウムおよび白金錯体を合成し、アルケンと水からの光水素発生型Wacker反応を検討する予定である。Wacker反応はパラジウムと銅を触媒としてエチレンと水および酸素からアセトアルデヒドをつくる反応である。Pd(II)とエチレンと水からPd(0)とアセトアルデヒドと2プロトンが生成する。Pd(0)はCu(II)により酸化されPd(II)に戻る。生じたCu(I)が、酸素およびプロトンと反応してCu(II)が再生する。(bpy)2Ru(II)部位の光酸化還元機能を利用することでPd(0)またはPt(0)とプロトンからPd(II)またはPt(II)とH2を生成させることができれば、目的の反応を達成することができる。
さらに、これまでに明らかになっているRhおよびIr錯体を触媒とする可視光により加速されるニトリルの水和反応やジエン類の選択的水素化反応の機構について、より詳細に調査するとともに、新たな触媒反応への応用について引き続き研究を行う予定である。
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