本研究は、カーボンナノチューブにおける電子の角運動量状態を明らかにすること、そして、電子格子結合を介して、電子系の角運動量が格子系に伝達する状況を理論的手法により調べることを目的としている。この研究を通じ、異種量子間の結合や散逸の微視的なメカニズムの探求といった基礎科学への寄与や、さらには高効率で駆動する回転子やスピンや谷自由度の高感度センサー実現への道筋を与えることを目指している。 本年度は、ナノチューブに閉じ込められた電子が、境界条件や外場のもと、どのような角運動量状態を取るのかを、様々な螺旋度のナノチューブに対して調べた。ナノチューブの電子状態を、ナノチューブ軸周りの角運動量の観点から整理することで、2つの谷状態が同じ角運動量を有する場合と、異なる角運動量を有する場合とがあることを示した。様々な螺旋度のうち80パーセントを超すナノチューブにおいては、谷が同じ角運動量を有するため、対称性の観点からは谷結合が避けられないことが明らかとなった。従来の谷分離を前提とする解析に対し、谷結合を含んだ電子状態の詳細を解析するために、スピン軌道相互作用を取り込んだ有効1次元格子モデルを導出した。これにより微視的なスピン状態を効率的に調べる基礎を構築した。また、外部磁場の印加に伴い特定の電子状態を操作するなど、電子状態のフィルタリングに関する研究を行った。さらに、電子と格子との結合に関し、古典的および量子論的な定式化を行った。
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