半導体量子ポイントコンタクト(QPC)におけるコンダクタンスの大きさは、2e2/hを単位として量子化されるが、量子化値から有意にずれた0.7付近にも特徴的な構造が現れることが観測されており、「0.7構造」と呼ばれる。この構造を示すQPC においては、電子間のスピン相互作用が重要な役割を果たしていると考えられている。核磁気共鳴(NMR)信号を電気抵抗変化として検出する抵抗検出型NMR法により、QPCにおけるスピン状態を、伝導電子と核スピンとの相互作用を通して捉えることが可能となってきた。そこで、電子スピンと核スピンの相互作用の詳細を解明するために、磁場中のQPC近傍のスピン電子状態とコンダクタンスについて理論的に考察した。 QPCを一次元タイトバインディング模型で取り扱った。QPCの伝導方向のポテンシャルの曲率が実験結果のコンダクタンスの振る舞いと対応が取れるモデルを採用して、電子間の相互作用は短距離クーロン相互作用で取り入れた。磁場が大きいことを考慮して、クーロン相互作用を平均場近似で取り扱った。核スピンによるオーバーハウザー効果がQPCのコンダクタンスに影響を与えている部分を特定するために、QPC近傍でゼーマンエネルギーを変化させたときのコンダクタンスの応答を調べ、QPC近傍の核スピン分布に関する情報を得た。また、核スピンとQPCを流れる電子スピンの散乱過程を定量的に扱い、核スピン分極の大きさを得た。 さらに、新学術領域に参加したことを機会に、QPC内の量子コヒーレンスについての新たな研究テーマを開始することができた。
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