研究領域 | ハイブリッド量子科学 |
研究課題/領域番号 |
16H01053
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 義朗 京都大学, 理学研究科, 教授 (40226907)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
量子気体顕微鏡とは、光格子中に導入された強相関原子系の原子の空間分布を、単一サイトの分解能かつ単一原子の感度での観測を可能にする技術である。これまで、アルカリ原子を主な対象として、様々な量子多体系の現象を直接観測することに適用され、威力を発揮してきた。ただし、これまでの測定は、全て、共鳴光を原子に照射したときの発光を高感度にCCDカメラで検出する、発光イメージング法が用いられている。本研究では、新たに、非共鳴光パルスを用いた分散型イメージング技術である、いわゆるファラデー顕微鏡を、量子気体顕微鏡に対して開発する。特に、光格子中の個々の原子スピンと入射光パルスフォトンとの量子もつれを形成し、測定誘起および測定を介さない原子スピンの量子フィードバック制御を行い、光格子中の原子スピン系に対する新奇の量子制御技術を開拓することを目的とする。 本年度の研究実績として、上記の研究目的に向けて、概ね順調に研究を進めることができ、具体的には、1)ファラデー配置でのショットノイズ限界の検出の確認、2)吸収の効果を取り入れたファラデー量子気体顕微鏡の検出理論限界の考察、3)スクイーズド光を用いた非破壊型量子気体顕微鏡におけるスキャン型検出法の提案、4)デジタルミラーデバイスを用いた空間光変調器の開発と実装、5)測定を介しないコヒーレントフィードバック法による遠方スピン間の相互作用の導入の提案、といった成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の平成28年度において、これまでの発光検出による(完全破壊型)量子気体顕微鏡ではなく、分散型のファラデー量子気体顕微鏡の振舞いを詳しく調べた。まず、実験的に、現在とほぼ同じ配置の光学系を構築し、CCDカメラの各ピクセルごとの光子計測の結果について、ショットノイズ限界の測定ができていることを、多数回の測定を行い、それを解析することで確認した。さらに、理論的な検討も進め、この分散型のファラデー効果における吸収の効果を定量的に見積もり、この有限の吸収レートから決まる、信号対雑音比の限界が存在することを見出した。そして、これを回避する方法として、バランス型ホモダイン検出時に真空スクイーズド光を用いる方法を新たに考案した。特に、各格子点の情報をスキャンしながら検出する、共焦点顕微鏡型の配置が最も適していることを見出した。 さらに、空間光変調器を用いて光格子中の原子の制御を行うことを念頭に、まず、デジタル・マルチ・ミラーデバイスにより、光学系に存在する様々な収差を補正したうえで、ほぼ任意の理想的な光ビームパターンを生成する技術を獲得することに成功した。そして、これを現有の冷却原子装置に組み入れることに成功し、空間光変調機からの光ビームの照射により、原子集団の分布が変更される様子を確認することができた。 そして、光格子中の個々の原子スピンと入射光パルスフォトンとの量子もつれを形成することによる、測定を介さない原子スピンの量子フィードバック制御による遠方のスピン間の相互作用の導入について、理論的な考察を進め、吸収の効果がこの場合も誘起される相互作用の大きさを制限することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
ファラデー型の量子気体顕微鏡の開発を進める。特に、スクイーズド光を用いた場合の究極の性能について理論的に明らかにし、実験的に実現可能な方法と考えている共焦点型顕微鏡型の配置での開発を行う。 それとほぼ同じ光学系を用いることによって実現可能な、光格子中の個々の原子スピンと入射光パルスフォトンとの量子もつれを形成することによる、測定を介さない原子スピンの量子フィードバック制御による遠方のスピン間の相互作用の導入について検討・開発を進める。これまでに、理論的な考察から、吸収の効果が誘起される相互作用の大きさを制限することを見出した。これを回避する方法として、多数個のスピンが少数のスピンに結合するような場合には、この制限が大きく緩和される可能性があるため、これを理論的および実験的に追及する。さらに、空間モードを維持したまま光を増幅するにより、この性能が飛躍的に向上する可能性について検討し、その実現可能性の検討を理論的および実験的に行う。また、実験的に光ビームの空間モードを操作する手法として、可変形ミラーデバイスを用いる可能性を検討し、これを実際に用いて性能評価を行う。
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