公募研究
本研究の目的は、5f 系物理の核心であるURu2Si2 において、30テスラ以上の強磁場で出現する磁場誘起秩序相の磁気構造を中性子回折実験により完全に定め、X 線分光によりウラン1 サイトのスピン-軌道状態と遍歴/局在度の定量評価を行う事である。中性子回折実験においては、原子炉の単色中性子を用いた30-40T の中性子回折実験により決定した非整合の磁気変調波数とNMR等の他の実験結果との整合性について、様々な磁気構造モデルを検討し、複数の変調周期の存在など、可能性を幾つかに絞り込み、イギリスのパルス中性子施設ISISにおけるパルス強磁場白色ラウエ法中性子回折の実験準備を進めた。モデルの検討の結果、単一波数のイジング型変調を仮定した場合、異なる波数の成分が必ず観測されるため、複数の波数が存在するか、サイン波的な変調であるかの、いずれかであることが明らかになった。この結果を踏まえて、今回のISISにおける実験では、熱中性を用いた分光器MERLINを用いる事こととし、課題採択された。熱中性子を用いると波数区間として[100]*と[110]*を含む散乱面を連続的に測定する事が可能で、磁気変調波数の全貌を明らかにする事が出来る。実験用の強磁場コイル、磁場発生電源については、組立と試験ののち、イギリスへの空輸と分光器への組み込みについては順調に終了したが、新しい分光器の利用であるため実験の実施手順の安全審査に時間を要し、実験実施はH29年9月を予定している。一方、X線分光については、ESRFにおける分光実験を準備しており、H29年度末に実施見込みである。これらと平行して、Ce化合物の極低温XMCD実験等を行い、メタマグ転移におけるCeの磁気状態の変化を調べ、学会等で報告を行った。
2: おおむね順調に進展している
パルス中性子回折実験はH28年度末までには実施出来なかったが、その一方で、原子炉の実験結果を精査することで、磁気構造モデルを絞り込みが進んだ。その結果、ISISにおいて熱中性子領域での実験課題が採択され、磁場発生装置の移設と組み込みは順調に進展した。今後の予定として、平成29年度は4月中旬と9月後半の2回の実験によってURu2Si2の強磁場中の磁気波数の決定が確実に実施出来る状態にあり、課題の実施状況は良好である。
ESRFにおける強磁場X線分光実験については、実験に必用な低温環境が一応条件は満たしているものの、中性子実験温度との間に差があり、解析で曖昧さが生じないために、より低温での実施が望まれている。この対応策として、ISISへ移設したパルス磁場発生装置を用いてXMCD実験を実施することを計画しており、これにより、中性子とX線の両者を組み合わせて、ウランの磁気状態の理解が可能となる。また、CeRhIn5の高精度回折実験等を領域内での共同研究を進める事により、領域課題の進展に寄与したい。
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Nat. Commun.
巻: 7 ページ: 13075-1-7
10.1038/ncomms13075
http://www.hfpm.imr.tohoku.ac.jp