本研究の目的は、特徴的なスピン軌道相互作用が働く表面d電子系における、スピンロッキングを起源とした超伝導保護効果の実体を理解するとともに、その効果によって現れる新奇超伝導現象を、電気二重層トランジスタ(EDLT)等の手法を用いて探索することである。平成29年度は、SrTiO3(3d電子系)とMoS2(4d電子系)のEDLT、およびMoS2-EDLTと類似の電子構造を持つNbSe2単原子層膜における臨界磁場特性とSrTiO3-EDLTのトンネル伝導度特性を調べた。 SrTiO3、MoS2、NbSe2のすべての系で共通した超伝導特性として、臨界磁場の磁場方位依存性が通常の常磁性極限モデルによる理論予測をはるかに超える高い値を保ちながら、面平行方位で緩やかなピーク構造を示す現象を見出した。この結果は、これまでスピン軌道相互作用の小さい従来型2次元超伝導体において広く観測され、理論的にも軌道極限モデルを用いて説明されてきた、鋭いカスプ状のピーク構造とは全く異なるものであり、スピン軌道相互作用が強い2次元超伝導体特有の新奇現象である。これによりスピンロッキングという機構によって通常より増強された常磁性極限そのものが、面平行臨界磁場を直接決定していることを証明できた。さらに面平行方向磁場の対比実験として調べたMoS2の面直方向の臨界磁場特性は、絶対0度近傍において、従来から知られる超伝導体―絶縁体相転移ではなく、2次元性と高結晶性に起因する量子グリフィス転移と呼ばれる新たな量子相転移であることも発見した。 SrTiO3のトンネル伝導度測定では、超伝導になる前の常伝導状態においても、スピン軌道相互作用の起源となる結晶内電場により、縮退したd電子軌道が分裂・再構成する様子が観測・制御可能であること新たに見出した。これは今後の超伝導特性のさらなる理解を進める上で重要な知見となる。
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