BaMn2As2は、625 K以下で反強磁性秩序を示す伝導性物質である。磁気構造は単純なチェッカーボード型であるにも関わらず、Mイオンの配位環境を考慮に入れると、磁気空間群における反転対称性が消失している。この磁気秩序相は、磁気四極子の強的な秩序と見做すことができることが先行研究から判明している。従って、BaMn2As2は奇パリティ多極子秩序系の新奇な量子伝導を開拓するための格好の舞台である。研究計画の初年度にあたる2016年度は、BaMn2As2に対する詳細な磁化率と磁気抵抗率の測定を実施した。磁化率の測定により、T*=40 Kでab面内に弱強磁性が発生し、スピンがc軸から僅かにキャントする逐次相転移を示すことを見出した。また、回転磁場中の磁気抵抗率の測定により、①広い温度と磁場領域において、面内に磁場を印加した際に負の磁気抵抗効果が生じること、②T<T*の低磁場領域において、面内に磁場を印加した際に正の磁気抵抗効果が生じること、③T<T*において、磁気抵抗効果に明瞭な面内磁場方位依存性が生じることを観測した。それぞれの起源は、①外部磁場印加に伴うスピン揺動の抑制に伴う伝導電子の散乱効果の減少に由来する負の磁気抵抗効果、②外部磁場あるいはラシュバ相互作用に起因する軌道磁気抵抗効果、③電気磁気効果による直方晶歪みに起因する異方的な磁気抵抗効果に対応していると考えられる。特に、③の現象は、空間反転対称性の破れた本系の特徴であると考えられ、奇パリティ多極子秩序系の新奇な量子伝導であると考えられる。
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