公募研究
多軌道効果が重要な役割を担っているd遷移金属化合物の理論計算を行った。特に、5dパイロクロア酸化物Y2Os2O7に着目した。この系は、電子数をカウントすることで、バンド絶縁体が基底状態であることが、単純には期待される。しかし、実験的には、磁気感受率の温度依存性ががキュリー・ワイス則に従う絶縁体であることが発見された。密度汎関数理論+動的平均場近似法、全対角化、の相補的な2つの計算手法から電子状態をしらべた結果、この新奇な絶縁相は、局所的な相関効果では説明できないものであることが分かった。特に、最近接原子間の斥力相互作用の重要性を見いだした。さらに、LiV2O4における重い電子挙動の起源を、密度汎関数理論+動的平均場近似法から調べた。過去20年、その起源が謎であった重い電子挙動は、バンド幅が顕著に異なる多軌道系特有の現象であることが明らかになった。以上の成果をまとめた論文の執筆中である。一方、新展開として、近年5dパイロクロア酸化物Cd2Os2O7において、従来のバンド計算とは矛盾するような準粒子バンドが最新の角度分解光電子分解法の計測で観測された。東大物性研究所の研究グループから実験データの提供を受けると共に、共同研究を2017年1月から開始したところである。現段階において、本物質において観測されている低温磁気構造が密度汎関数理論+動的平均場近似法で再現できることが確認されている。準粒子バンドの解析が今後の課題である。
1: 当初の計画以上に進展している
研究自体は、当初の計画通り進展している。2つの物質に関して、出版に値する成果が得られ、現在論文を執筆中の段階である。特にLiV2O4の重い電子挙動は物性科学における大きな謎の一つであり、最新の計算物理学から新しい知見を得られたことが評価できる。
これまでに得られた成果を出版論文としてまとめると共に、実験家と協力した他の物質の研究を進める。特に、5dパイロクロア酸化物の低温準粒子状態の実験データを実験研究者から提供されており、共同研究を進める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Computer Physics Communications
巻: 215 ページ: 128-136
10.1016/j.cpc.2017.01.003
巻: 213 ページ: 235-251
10.1016/j.cpc.2016.12.009
Physical Review B
巻: 94 ページ: 245134 (1-9)
10.1103/PhysRevB.94.245134
http://shinaoka.sakura.ne.jp/activity.html