研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
16H01065
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
阿部 伸行 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (70582005)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 奇パリティ多極子 / 方向二色性 / ハニカム構造 / 電気磁気効果 |
研究実績の概要 |
今年度は3d遷移金属化合物を対象として、多極子秩序に由来する電磁波の非相反伝搬現象の開拓と、ハニカム構造を持つ反強磁性体における磁気伝導現象を調べた。 結晶構造に反転対称性を持たない磁性体であるキラル磁性体や極性磁性体では、電磁波の進行方向の反転に伴って電磁波の吸収量が変化する方向二色性が現れる。今年度はキラル磁性体であるCsCuCl3を対象として可視光から近赤外領域の光吸収、および極性磁性体であるGaFeO3を対象として60~300GHz領域の磁気共鳴吸収における方向二色性の有無を調べた。どちらの場合でも方向二色性の観測に成功し、これらの反転対称性を持たない磁性体における電磁応答として一般的な現象であることを示した。 ハニカム構造を持つ反強磁性体では、磁気構造の形成に伴ってトロイダルモーメントや磁気四極子などの奇パリティ磁気多極子が生じ、これまで報告例が無い3d電子系においても反対称なスピン軌道相互作用に由来する新奇な伝導現象が期待できる。今年度は物質開拓としてCaMn2Bi2およびMgIrO3の試料合成を行い、物性を調べた。CaMn2Bi2はフラックス法により単結晶育成を行い、物性の異方性を調べた結果、特異な磁気伝導現象を示すことがわかった。MgIrO3はイオン交換法による多結晶育成を行い、低温での磁性と結晶構造を調べた結果、結晶構造は低温まで変化しないことがわかった。今後これらの物質について研究を進め、物性を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3d遷移金属化合物における奇パリティ多極子に由来する新奇物性の開拓を目的として研究を進めている。今年度の研究によりキラル磁性体であるCsCuCl3における可視光から近赤外領域と磁気キラル二色性と、極性磁性体であるGaFeO3におけるフェリ磁性共鳴における方向二色性を観測することに成功した。また、ハニカム構造を持つ磁性体としてCaMn2Bi2およびMgIrO3の合成に成功した。 これらの実験的成果をもとに今後の研究を推進できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き物質探索を行いつつ、奇パリティ磁気多極子に由来する特殊な物性応答の検出を目指した測定系の構築を行う。 まずキラル磁性体であるCsCuCl3のマイクロ波領域における磁気キラル二色性の検出を行う。これにより可視光から近赤外の光領域における磁気キラル二色性との比較を行い、その大きさや発現機構について明らかにする。 奇パリティ磁気多極子に由来する新奇物性として、無電場下における光起電力が挙げられる。この現象は奇パリティ磁気多極子が空間反転および時間反転に対して対称ではないことに由来して、反対称なスピン軌道相互作用の効果が現れることにより、物質のバンド構造が運動量方向にシフトすることに起因すると考えられている。光起電力の測定では2軸可動型の試料ステージを用いて光の照射位置を制御する。起電力の光照射位置依存性を調べることで、光照射による熱勾配の発生による起電力の影響を取り除く。高精度での測定を行うため光チョッパーとロックインアンプを用いた測定系を構築する。光源として半導体レーザーおよびハロゲンランプを用いた単色光源を使用し、励起エネルギー依存性を調べる。測定候補物質として電気磁気効果を示す六方晶フェライト、ハニカム構造を持つCaMn2Bi2、磁気四極子秩序を示すBaMn2Bi2などの単結晶を用いる。
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