研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
16H01069
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
椎名 亮輔 琉球大学, 理学部, 教授 (30326011)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | cf混成 / 電子軌道 / 多極子 / 価数ゆらぎ / 希土類 / スクッテルダイト / 磁場 / 結晶場 |
研究実績の概要 |
(1)SmRu4P12の磁場中伝導現象の理論 近年、この物質で知られていた磁場中の複雑な物性が、磁性および電荷秩序の混合状態の形成によるものであることが分かってきた。当年度は、こうした混合状態が磁気抵抗に及ぼす効果を調べるため、輸送方程式による解析を行なった。秩序状態を記述する平均場近似の枠組みにおいて、伝導電子の緩和時間を秩序変数のゆらぎおよび不純物による散乱を考慮して計算し、磁場中の伝導特性を調べた。ゼロ磁場での電気抵抗には、秩序化に伴うギャップ形成により明確な金属絶縁体転移が見られるが、磁場印可により転移点直下の抵抗が抑えられ、抵抗の上昇がII-III相境界近傍へシフトすることが分かった。これは、秩序変数の混合により、磁場下でギャップ形成が妨げられることに起因している。このように転移点近傍では顕著な負の磁気抵抗が現れる一方、低温領域では伝導電子の軌道運動効果を考慮すれば磁気抵抗が正となることも示された。これらの特徴はSmRu4P12の最近の実験結果を良く説明する。さらに磁場中のスピン伝導度の計算も行なった。磁性・電荷の混合状態では、伝導電子がほぼ半金属状態になることを反映して、転移点直下でスピン伝導度の温度変化が鋭いピーク構造を作ることを示した。 (2)中間希土類化合物における価数揺らぎの解析 SmおよびEu系特有の価数揺らぎの機構を理解する足掛かりとして、当年度は一重項基底を有するf2不純物アンダーソンモデルの数値繰り込み群による解析を行った。cf混成の変化により、近藤状態と局所一重項状態の間に常に量子相転移が生じることを示し、相図を作成した。その上で、多体一重項と磁性状態の価数ゆらぎがcf混成の変化により急激に生じること、またその際に軌道占有状態の急激な変化を伴うことなどを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここ数年来取り組んできたSmスクッテルダイトに対する新しいモデルに対して、当年度は伝導特性を中心に解析を行ない、複雑な磁場効果の実験を説明しうる計算結果を導くことが出来た。また、それにより、磁場中の伝導バンドギャップの変化が、相図や熱力学特性と整合的であることが示され、この系の特異な電子状態に対する理解がより一層深まった。このことは、今度、他のスクッテルダイト系や希土類1-2-20系などの関連物質におけるcf混成の軌道依存効果の解析の布石となりうると思う。また、その他、f2不純物アンダーソンモデルの数値くり込み群解析を着実に進めており、今後のSmやEu系の価数ゆらぎの問題への応用の基礎を築くことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
Smスクッテルダイトに関して、これまでの有効モデルでは局在f電子を仮定していたが、f電子の遍歴性を考慮した周期アンダーソンモデルによる解析を行なう。混成を強めて行くと、反強磁性相から量子臨界領域を経て近藤半導体に至ると考えられるが、その過程で磁性・電荷の複合相がどのような変化を示すかに注目して解析を行なう。また、Sm、Eu化合物の異常な価数ゆらぎの問題に対して、まずはf2系へ有効モデルをマップすることで、数値くり込み群による解析を行なう。
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