研究計画の2年目にあたる今年度の前半は、本学術領域と関連する2つの国際会議(2017年7月開催の強相関電子系国際会議、9月開催のJ-Physics国際ワークショップ)に向けて、これまでの多重量子ドット系のスピン電荷制御の理論を発展させ、特に「反対称スピン軌道相互作用」によるスピンと軌道の結合について調べた。具体的には、三角形三重量子トッド系において、ドット・リード接合による近藤効果、外部磁場および局所電場によって、量子ドット系内の誘起電気分極およびスピンを反転制御する可能性について明らかにした。また、この反転をもたらす2つの量子状態の変化は、近藤効果の強結合・弱結合状態の競合と密接に関係することを明らかにした。本研究で調べた、多重量子ドットの閉じたループがつくる分子軌道とスピン多重項とが絡み合う物性は、将来的に量子ドット系における多極子物性とそれを利用したスピン電荷制御の研究へと発展すると期待される。 また今年度の後半は、本学術領域の重要課題である多極子に起因する非フェルミ流体状態を精力的に研究した。特に、結晶場三重項による近藤効果について、Pr原子を磁性原子として含む重い電子系で重要視されている四極子と伝導電子系との結合について調べた。主な研究結果として、磁場で誘起される四極子モーメントの温度依存性が、非フェルミ流体的特性として磁気モーメントと同様のべき異常を示すことを見出した。本研究の成果については、今年度末に開催された領域全体会議において口頭発表した。さらに内容を精査して論文として出版する予定である。
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