研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
16H01074
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
関山 明 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40294160)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光電子分光 / 偏光 / 強相関電子系 / 放射光 / 軌道対称性 |
研究実績の概要 |
強相関4f不完全殻が物性に重要な影響を与える希土類化合物において、結晶場分裂によって生じ局在多極子の起源となりうる異方的4f電荷分布=軌道対称性の直接的な決定は実験的に従来困難だった。この中で、我々は単結晶希土類Yb化合物において内殻光電子スペクトル形状が有為な放出角度および偏光依存性を示すことを利用した4f不完全殻の異方的4f電荷分布に起因することを見いだしたが、本研究課題ではこの成果をもとに、角度分解内殻光電子線二色性測定を他の希土類にも拡張し、多極子活性軌道が基底状態として有力な系及び関連する強相関4f電子系に対して測定し、基底/励起状態における軌道対称性を実際に直接決定する手法にまで昇華させるとともに多くの希土類電子系の基底状態対称性を明らかにすることを目的としている。これまで、 ・基底状態がそれぞれ異なる立方晶Ce化合物CeAl2とCeB6について同じ測定条件で基底状態を反映して線二色性が反転し、Ce3+イオン模型での理論計算でほぼ線二色性が再現できるとともに懸案であったf2終状態の効果が深刻ではないこと ・圧力誘起超伝導体である正方晶CeCu2Ge2のc軸に対して斜出射となる2つの配置から正確な4f電荷分布決定方法を確立し、電荷分布の向きは定性的には常圧下で超伝導となるCeCu2Si2と類似であること ・磁気双極子活性かつ電気四極子活性なΓ5基底状態が実現しているとされるPrB6に対して[100]方向において3dおよび4d内殻光電子スペクトル線二色性を観測しPr3+イオン模型によるΓ5基底の理論計算で良く再現され、本手法がPr系に対しても有効であること ・正方晶SmCu2Si2に対しても[100]方向で明瞭なSm3+ 3d内殻光電子線二色性を観測し、基底状態がJz=±5/2の支配的なΓ7状態にあること、および本手法がSm3+系に対しても有効であること を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要欄に記載したとおり、H28年度はCe, Pr, SmといったYb系以外の希土類電子系に角度分解内殻光電子線二色性測定を適用し期待通りの線二色性が得られ理論計算が実験結果をよく再現しうることが判明した。Pr3+系では3d内殻光電子線二色性の検出が基底状態によっては実験的にかなりの困難を伴う(特に[111]方向)ことが判明した一方で、他の軌道の内殻準位とエネルギー的な重なりがなければ4d内殻光電子線二色性も手段として有効であることがCe3+系とともに明らかになった。これらの進捗は、申請時に想定していた予想と大きく外れることはなく、計画通りYb以外の希土類元素に対しても着実にアプローチできている。さらにはSm3+系の結果についてはH28年度中に査読付き学術論文にアクセプトかつオンライン公開もできたことから「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られた結果は着実に学会発表を行っているが、国際的な成果として発信するには学術論文としてこれらの結果を複数投稿して受理される必要がある。また、Sm3+系についてはさらに追加実験も進めていく必要がある。今後は、概要欄で得られた結果を投稿論文としてまとめ国際的な雑誌に投稿することと並行して、複雑さゆえにあまり研究が進んでいるとはいえない多極子活性物質の一つであるDyB2C2の研究にも挑戦することで手法の一般化をはかる事、および正方晶Ce化合物において超伝導を示す系とそうではない重い電子系で定性的に電荷分布に差異が見られるのか等について実験的に検証を進める。
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備考 |
VUVX Conference Award for Condensed-Matter Physics受賞(2016年7月)
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