研究実績の概要 |
本研究課題は、MX2、MXY(M:遷移金属元素、X:S,Se,Te、Y:P,As,Sb,Bi)の化学式を取る遷移金属化合物とその固溶系を対象として、新奇物性を開拓することを目的としている。本年度はNiおよびPdダイカルコゲナイドを中心に研究を行った。 NiTe2は層状CdI2構造を取る物質であるが、この物質において低温で磁場に比例し、7Tの磁場下において約30%の、比較的大きな磁気抵抗効果が観測された。Niを過剰に入れたNi1+xTe2では、この磁気抵抗効果が過剰Niの量xに依存していることが判明した。この磁気抵抗効果は、本系においてディラック電子が存在していることを示唆していると考えている。過剰Ni量xの変化に伴い、Niの3dバンドのフィリングが変化し、ディラック点とフェルミ準位(EF)の相対位置関係が変化するため、磁気抵抗率が変化したものと予想している。 このディラック電子がNiTe2中に存在していることを検証するために、角度分解光電子分光(ARPES)測定を行った。ARPESの結果、本系のバンド分散関係が明らかになった。その結果、ブリルアンゾーンの境界と中心付近に、ディラック点が存在しており、特にゾーン中心のディラック点はEF近傍に存在しているため、これが磁気抵抗効果に影響を与えている可能性があることが判明した。 本年度、PdSe2-xTex固溶系の単結晶の研究も行った。PdTe2は六方晶CdI2構造をとる金属で、低温で超伝導を示すことが知られている。一方、PdSe2は斜方晶の半導体である。その固溶系では、x=0.4付近で六方晶-斜方晶構造相転移、金属-半導体転移が生じている。PdTe2(x=2)にSeを置換すると、超伝導転移温度が1.7K(x=2)から3.2K(x=0.5)付近まで上昇することが判明した。これはSe置換に伴い電子相関効果が増大していることを示唆している。
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