研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
16H01084
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
藤森 伸一 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 物質科学研究センター, 研究主幹 (70343936)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / アクチノイド化合物 / 角度分解光電子分光 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、アクチノイド化合物において発現する新規量子物性をミクロな電子状態から理解することを目的として、放射光を用いた3次元角度分解光電子分光(ARPES)を利用して、隠れた秩序転移を示すURu2Si2をはじめとして、磁性と超伝導が共存するウラン化合物の完全な3次元バンド構造およびフェルミ面を実験的に決定する。従来のARPESでは運動量空間の「線」(1次元)のバンド構造、あるいは「面」(2次元)のフェルミ面で捉えられていた電子構造を、完全な「立体」(3次元)で導出することによって、これまで捉えられていなかった強相関ウラン化合物におけるU 5f電子構造の特徴を明らかにする。
平成28年度は3次元ARPESの測定システムとデータ解析システムの構築、ならびに最初の実験として隠れた秩序転移を示すURu2Si2への適用を行って、完全な3次元電子構造の導出を行った。結果を解析したところ、従来の手法で得られていた2次元的なデータでは捉えられていなかった、特徴的な電子構造が観測されていることが明らかになった。特にこれまでのデータでは3次元的な繋がりが不明であったフェルミ面形状について、3次元的な構造が得られることが明らかとなった。今後、これらの結果を様々な理論モデルと詳細に比較することによって、URu2Si2の物性を電子状態の立場から理解することを目指す。
また、これらの実験を通じて手法の有用性が確認され、また測定方法や解析方法における効率化などの確立を行った。今後、この実験手法をさらに多くの化合物に対して適用することを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度において、予定してた測定システムと解析システムの構築を中心に行った。当初予定してた開発を行って、実際に現実的なビームタイム内において実験が可能であること、ならびに最初に行ったURu2Si2に対する実験結果から、この手法の有用性を確認することができた。また、この測定システムを反強磁性体であるEuRh2Si2に対して適用し、反強磁性転移に伴う電子状態の変化を観測することに成功した。これまで角度分解光電子分光によって反強磁性転移に伴う電子状態を観測した例は稀であり、特に3次元的な電子状態の変化を実際に観測することができた最初の例であると考えられる。
一方で、試料冷却用液体ヘリウムクライオスタットの予期せぬ故障によって、約4か月間予定していた実験が行うことができない状態となったが、修理後に集中的にマシンタイムを確保することによって、当初予定していたデータを取得することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は解析システムのさらなる高度化と、さらに多くの化合物への適用を進める。まず反強磁性と超伝導が共存する化合物UPd2Al3に対して実験を行って、その3次元的なフェルミ面を実験的に明らかにし、超伝導に関与しているフェルミ面に関する理解を得ることを目指す。さらに、強磁性と超伝導が共存するURhGe(またはUCoGe)に対する実験も行い、対称性の低い結晶構造に起因した複雑な電子状態を明らかにすることを目指す。とくにバンド計算との詳細な比較を行って、これまで十分に捉えられていなかった電子状態を明らかにする。
一方で、この測定システムは3次元ARPESだけではなく、様々な測定手法へと拡張することが可能である。特にこのシステムを応用し、申請者がこれまで進めてきた共鳴光電子分光実験を非常に詳細に測定することを計画している。共鳴光電子スペクトルの光エネルギー依存性を、従来の数倍細かいエネルギーステップで連続的に測定することにより、5f電子状態の非占有状態に関する情報を得ることができると予想しており、今後この手法の検証も行う。
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