宇宙の中で、物質密度の大半を占めるのは暗黒物質であり、その本質を解明することは現代物理学の最大の課題のひとつである。実際の宇宙に見られる大規模構造は、冷たい暗黒物質とよばれる理論によって自然に説明できることが知られていて、現在の標準理論になっている。しかし、銀河系や衛星銀河の空間スケールをみると、冷たい暗黒物質の理論予言と矛盾する観測事実が報告されており混沌とした状況にある。この問題の鍵は、銀河系やその衛星銀河などの近傍銀河の理解であり、特に、1.矮小銀河の真の数分布の決定、2.矮小銀河にある暗黒物質の分布の決定、のために、系統的な観測とその理論解析が重要になる。 本研究では、1.の問題、すなわちミッシングサテライト問題に対して知見を得るために、現在進行中のすばる望遠鏡の超広視野カメラを用いた観測データを用いて、系統的に衛星銀河の探査を進めてきた。そして、これまで新しい衛星銀河を2個発見し、2編の学術論文として発表した。さらに、3個目の銀河も発見しており、結果をまとめている最中である。また、これまでの衛星銀河の発見率が冷たい暗黒物質の予言と矛盾しないことが分かってきた。 さらに、2.の研究テーマに対して、銀河系の各衛星矮小銀河の測光データを解析し、各銀河の空間構造を導出した。そして、この測光データをもとにして将来の多天体分光観測の計画を立案した。特に、どのような観測情報から暗黒物質の正体に迫れるか検討を行った。これらの成果に基づいて、今後の分光観測を中心とした研究を推進したいと考えている。
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