公募研究
平成28年度は4月に研究協力者Jian Jiang(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程1年・研究代表者が指導教員)を研究代表者として応募したすばる望遠鏡の広視野カメラHyperSuprimeCam(HSC)の共同利用観測時間1.5夜分が採択され、戦略枠の観測も活用しながら、Ia型超新星の早期発見観測を試みた。その結果、3個のIa型超新星を発見、そのうち比較的近傍の1個については、爆発後数日での観測(色の情報を含む)に成功した。追加観測は海外の8m級望遠鏡を含む7台の望遠鏡で行った。その結果、初期増光を期待通りにとらえることに成功した一方で、この超新星は明るさは標準的であるが、スペクトルにおいては大変稀な特徴を持つことが判明、現在早期増光の起源についての解釈を行いながら、論文投稿準備中である。HSCの研究成果発表については、Jiangがチリで開かれた超新星の国際研究会、広島で開かれたすばる望遠鏡成果報告の国際研究会、すばるユーザーズミーティング、および領域全体の研究会において、探査の現状を報告した。すばる望遠鏡HSCの観測時間はその後は応募はしているものの残念ながら不採択となっているが、木曽観測所の口径1mシュミット望遠鏡の広視野CCDカメラKWFCを用いて近傍Ia型超新星の早期発見を目指して観測を行っている。超新星候補は10個以上発見されているが、早期のIa型超新星は残念ながらまだ発見できていない。さらに、スローンデジタルスカイサーベイIIによる超新星観測結果を用いて、Ia型超新星について測光結果の解析をすすめ、親星が色や明るさの点で2種類(以上)ある可能性、また減光の原因になっている塵の性質が2種類(以上)ある可能性を示す論文を、高梨直紘を研究協力者として一緒にまとめ、発表した。
2: おおむね順調に進展している
すばる望遠鏡による観測は、採択直後に幸い実施をすることができ、予定通りIa型超新星を早期に発見することができた。直後の測光観測は、海外の望遠鏡が悪天候等ですぐに使えず、すばる望遠鏡でのみ観測できたが、それでもIa型超新星の爆発後、もっとも早い段階での2バンドの観測に成功した。分光観測もSALT9.2m望遠鏡やGEMINI8m望遠鏡による観測を最大光度付近で行うことに成功した。初期増光はとらえたが、観測結果を総合的に解釈すると、当初想定をしていた伴星との相互作用による増光を捉えたものでない可能性が高く、現在理論モデル等との比較を慎重に行いながら、観測論文としての出版準備を進めている。全体としては、順調に一年目に観測的成果をあげることができた。この結果は、Ia型超新星の早期観測が、親星の理解へ大変重要な貢献ができることを示唆している一方、より複雑な現象、ひいてはさまざまな親星あるいは爆発の仕組みが見えてくる可能性が高くなってきており、距離指標としての精度をあげる、という長期目標に対しては、時間がよりかかる可能性がでてきた。また、すばる望遠鏡は大変人気があり、観測提案の採択率が引き続き低く、2回目の共同利用観測時間の獲得ができていないが、引き続き応募していく。
Ia型超新星の起源に迫るためには、早期からの観測例をさらに増やしていく必要がある。しかしながらすばる望遠鏡の観測時間確保が簡単でないことが課題となっている。これについては、1個目の発見成果をできるだけ早く発表し、研究の価値と成果を広く宣伝していき、すばる望遠鏡の観測時間の獲得を目指すと共に、木曽観測所のシュミット望遠鏡などを活用して、早期発見を別のサーベイによっても行っていくことで対応したい。また、Ia型超新星の親星や爆発のメカニズムが、これまで想定していたよりも複雑である可能性が高くなってきた。そのため、過去のIa型超新星の光度曲線やスペクトルの再解析も重要であると考えられる。光度曲線については、すでに過去のデータを用いて研究を進めており、今後はスペクトルの分類とあわせて研究をすすめていきた。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件)
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
巻: 465 ページ: 1274-1288
10.1093/mnras/stw2730