研究領域 | なぜ宇宙は加速するのか? - 徹底的究明と将来への挑戦 - |
研究課題/領域番号 |
16H01092
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
成子 篤 東京工業大学, 理学院, JSPS特別研究員 (80749507)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 暗黒エネルギー / 縮退した運動項 / ベクトル場 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、「縮退した運動項」と呼ばれる特別な運動項を持つ新しいベクトル場の理論、Extended Vector-Tensor Theory の定式化を行った。 Extended Vector-Tensor Theory とは、暗黒エネルギーの候補の一つとして注目されているスカラー・テンソル理論において、近年活発に議論されている「縮退した運動項」という概念を、ベクトル場の理論に応用したもので、Maxwell 理論や有質量ベクトル場の理論である Proca 理論を一般化したものである。通常、4次元の有質量ベクトル場の理論は、ベクトル4成分のうち3成分のみが動的な自由度となっているが、これは4成分のうちの1成分が運動項を持たないためである。ところが、スカラー・テンソル理論における「縮退した運動項」という概念をベクトル場の理論に応用し、ベクトル場と重力場の運動項を適切に結合させると、系の力学自由度の数を変えることなく、その1成分に対しても運動項を導入することが可能となる。本研究により、これまで未知であった新しい無/有質量ベクトル場の理論の存在が明らかとなった。
本年度はまた、模倣暗黒物質モデルに関連した研究も行った。このモデルは、一般相対性理論の作用に対して特異な (逆変換が存在しない) 計量の変換、より正確には特異な共形変換を施すと、暗黒物質のようにふるまう物質場が自然と現れる、というモデルである。他方、修正重力理論の分野において近年、共形変換を拡張した離形変換と呼ばれる計量の変換が、新しい理論を探る手がかりとして注目されている。そこで本年はまず、一般相対性理論の作用に離形変換を施し、その変換が特異的でない場合に限って、得られた理論の構造を調べた。特に、変換後の作用に非自明な拘束条件が含まれていることを見出し、そのような拘束条件の一般的な表式を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初計画していた高階微分重力理論に関する研究を変更し、ベクトル・テンソル理論に関する研究を行った。しかしながら、新しいベクトル場の理論をきちんと定式化し、学術雑誌において発表することもできたため、十分な成果を出せたと考えている。また、模倣暗黒物質モデルに関する研究についても、おおむね当初の予定通りに研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、初年度に定式化を行った Extended Vector-Tensor Theory について、その理論が現実の宇宙を記述しうる理論となっているかどうかを明らかにするために、宇宙論に応用した研究を行う。 スカラー場に「縮退した運動項」の概念を適用した理論は DHOST 理論と呼ばれるが、近年その理論に基づく宇宙論に関する研究がなされた。興味深いことに、一様等方時空のまわりの線形揺らぎのふるまいを調べると、重力ポテンシャルもしくは重力波のいずれかに、必ず不安定性が現れることが発見された。そこで、Extended Vector-Tensor Theory においても同様な不安定性が現れるかどうかを明らかにするために、空間的に一様等方な背景時空を仮定し、そのまわりの線形揺らぎのふるまいを調べる。もし不安定性が現れるようであれば、「縮退した運動項」という理論構造に基づいて不安定性が現れている可能性が高く、その起源を明らかにする。また、背景時空に対する仮定をゆるめ、一様だが非等方な時空のまわりの揺らぎのふるまいも、必要によっては調べる。
他方で、模倣暗黒物質モデルに関する研究も進める。初年度はまず、特異的でない場合に限って、一般相対性理論の作用に対して離形変換を施し、得られた理論の諸性質を調べた。本年度は、その変換を特異な場合にも一般化し、どのような帰結が得られるか、特に宇宙論への応用に注目して調べる。
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