研究領域 | なぜ宇宙は加速するのか? - 徹底的究明と将来への挑戦 - |
研究課題/領域番号 |
16H01096
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西澤 淳 名古屋大学, 高等研究院, 特任講師 (70402435)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 宇宙物理 / 観測的宇宙論 / 天文学 |
研究実績の概要 |
最終的な計算に用いる数値シミュレーションは非常にデータ量が多く、解析に相当な時間を要するため、本年度では小規模な数値シミュレーションを作成し、解析パイプラインの作成とモデルの構築を行なった。 解析パイプラインは、1)シミュレーションの位置データに速度情報を付加し、赤方偏移空間の物質分布を再現:2)赤方偏移空間において、ボイドを同定するアルゴリズム(VIDE:公開コード)を適用する:3)我々の開発したモデリングにより、赤方偏移歪みの補正を行いボイドの形状を測定する:4)ボイド形状の球形からの乖離度により宇宙論パラメータへ制限を行う の一連の解析を行うもので、テスト計算により宇宙論パラメータの推定は入力(仮定)した宇宙論パラメータを正しく再現することが確認できた。モデル構築には線形摂動で記述される理論をボイドに応用することで、ボイドの動径方向の形状を記述するのに用いた。しかしながら、特にボイド構造の中心部は非線形性が比較的強く、単純な線形理論では正確にボイドの形状を記述できないことが判明した。モデリングの改良については引き続き次年度で取り組む予定である。 また、ダークエネルギーを宇宙項モデルから一般化して空間的に揺らぎがある場合にボイド形成へ与える影響を理論的な取り扱いが良い球対称モデルを用いて調べた。その結果、個々のボイドの成長に与える影響は非常に小さいものの、ボイドのサイズ分布には多大な影響(20Mpc/h程度のボイドの個数が30%以上変化)があることが判明した。 得られた成果は、国際会議等で発表を行なった。また、査読付き論文雑誌にも掲載準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)理論的な取り扱いが良い球対称モデルによる、一般化したダークエネルギーがボイドの形成過程に与える影響を調査する予定であったが、これは計画通り進行した。ただし、大学院生を主導として進めていたこともあり、論文執筆にまでは至らなかったが、現時点でほぼ投稿の準備が完了しており、早急に投稿できるものであるため、深刻な遅れではない。
2)当初計画では、シミュレーションコードの改変を行い、非標準的な宇宙論モデルに対応するデータ作成を計画していたが、これは応用的な研究であるため次年度に持ち越し、かわりにデータ解析のパイプラインの作成を先に進めることとした。これは我々の研究方策やモデリングが正しいことを先に実証することが優先すると判断したためで、次年度で行う予定であった課題の順序を入れ替えたにすぎず、進捗としては順調に進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
球対称モデルで得た理論計算によると、比較的半径の大きいボイド(>20Mpc/h)のボイドの個数分布は、ダークエネルギーの空間的な揺らぎの影響を非常に大きく受けるという結果を得たが、これが孤立系の理論計算ではなく実際の宇宙大規模構造形成過程においても正しいことを検証する。そのため、N体シミュレーションコードを改変し、ダークエネルギー揺らぎを取り扱うような実装を行う。 また、本年度の解析パイプライン構築の際に浮き彫りとなった問題についても対応を行う。具体的には我々は線形摂動理論でボイド構造の密度プロファイルを記述しようとしたが、ボイド中心部での非線形性が強く、線形理論によるモデリングでは不十分であることが判明した。本年度では、この理論の不定性に拠らない評価指標を提唱したが、この評価指標はバイアスが少ない代わりに情報のロスが大きい。次年度ではモデリングに非線形の効果を取り入れ、精密化を行うとともに、より効率的に情報を取得する評価指標の構築を目指す。 また、当初の計画通り、観測データへの適用も視野に入れて解析を行う予定である。
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