研究領域 | なぜ宇宙は加速するのか? - 徹底的究明と将来への挑戦 - |
研究課題/領域番号 |
16H01097
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
柳 哲文 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (60467404)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非一様宇宙モデル |
研究実績の概要 |
本研究では非一様球対称宇宙モデルを考え,我々はその中心にいるとして,そのような球対称な非一様性を観測からどれくらい制限がつけられるか,非一様性がどの程度の系統誤差を生じさせるかを明らかにすることである. 本年度の第1段階の目標は(a)与えられた光度距離ー赤方偏移関係から,それを満たすΛLTBモデルを構築し,真の宇宙項の値と光度距離にパラメータとして含まれる見かけの宇宙項の値との差を埋めるためにはどの程度の非一様性が必要かを明らかにすることであった.この目標は予定通り達成され,結果が学術誌に掲載された. 次に,このように構成されたモデルにおいて,宇宙背景放射の角度パワースペクトルを計算する手法を開発し,オープンコードと組み合わせることによって,実際に角度パワースペクトルを計算することができるようになった.具体的には光子の最終散乱面付近では十分一様等方な状況が実現されているとし,最終散乱面付近における一様等方モデルのパラメータをΛLTBモデルから抽出し,それをオープンコードに入力することによって,仮想的な一様等方宇宙におけるパワースペクトルを得る.その後,最終散乱面までの角径距離の違いに伴う補正を行うことによって,ΛLTBモデルにおける宇宙背景放射のパワースペクトルを計算することができる. このパワースペクトルと観測データを比較し,モンテカルロ解析を行って,モデルパラメータに制限を付けることが次の目標である.全体的な計算自体は概ね完成されつつあるものの,細かな修正が必要となっており,いまだ収束していないのが現状である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CMBパワースペクトルを観測と比較する際,予想よりもパラメータ範囲の収束性が悪く,用意する非一様宇宙モデルの幅が広くなっている.そのため,予期しないエラーを吐き出して計算がクラッシュすることがあり,モンテカルロシミュレーションがうまく走らないという問題が起こっている.
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今後の研究の推進方策 |
まずはCMBパワースペクトルを用いたパラメータ領域に対する制限を明らかにする.そのためには考える非一様宇宙モデルの範囲を限ることが有効だと考えられる.我々が興味のあるのは主に,我々の周辺の物質密度が比較的小さい,voidモデルと呼ばれるものである.まずはこのようなモデルに限ることによって,CMBパワースペクトルを用いた制限を得る.もう一つの可能性は他の観測量を最尤値の評価に導入することである.これはシミュレーション手法の修正を伴うため,少し時間を要すると考えられるが,必要ならば導入する.それとは独立に,非一様性を制限する上で有用であると考えられている観測量についても並行して評価,比較を行う.一つは宇宙項のない場合の非一様宇宙モデルの観測的制限において決定的な役割を果たしている,kinematic Sunyaev-Zeldovich効果が挙げられる.ΛLTBモデルにおいてこの効果を計算すること自体は比較的簡単であり,今後の課題の第1目標とする.次に宇宙の大規模構造におけるバリオン音響振動スケールも非一様宇宙モデルを制限する上で有用である.ΛLTBモデルを用いてバリオン音響振動スケールの観測値を計算し,実際の観測と比較することによって,非一様性に強い制限をつける.このようにしてつけられた制限の範囲内で,今後の暗黒エネルギーに関する観測においてどの程度の系統誤差が期待されるかを定量的に評価する.また,赤方偏移歪みや弱重力レンズ効果,加速膨張の直接観測などへの影響を評価し,より強い制限が得られる可能性を明らかにする.
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