本研究は、すばる望遠鏡の広視野撮像装置(HSC)による天体の撮像データをもとに天体までの距離を推定するモデルを構築し、評価することを目的としている。そのような距離の推定は測光的赤方偏移(photo-z)と呼ばれる。HSCは分光観測と比較して、単位時間あたりより多くの天体を観測できる一方で、周波数空間では低い分解能(基本的に5つのバンド)しか提供しないというトレードオフがある。 29年度は天体の撮像データから赤方偏移の予測を行うニューラルネットの改良を試みた。従来は5バンドのフラックスデータをもとに、統計的手法、機械学習、テンプレートフィッティングなどの手法が用いられていたが、28年度に構築したニューラルネットでは積分前の5バンドの撮像データを入力とし、3つの畳み込み層と間にドロップアウト層をはさんだ2つの全結合層からなるモデルにより、特に外れ値の出現頻度の抑制の観点で、従来手法からの大きな精度向上を実現した。29年度は画像分類において現在最高の精度を誇るResidual Network (ResNet) の手法を取り入れた最大200層からなるニューラルネットを使い、外れ値の出現頻度を同等に保ちつつ、予測誤差の低減を図ることができた。さらにHSCの制約上、避けることの難しい外れ値ついても、多くの場合ニューラルネットが予測する赤方偏移の第二候補として正解が補足されていることを示した。また副産物として、シーイング(大気揺らぎによる像サイズの変化)に対して、ニューラルネットに基づく画像処理のアプローチがロバストであることも分かった。これはニューラルネットが天体の大雑把な形状も予測に役立てていることを示唆している。
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