平成29年度には、天文コム本体のファブリペロー共振器の鏡の交換とファイバーモーダルノイズを低減するためのファイバー・アジテータの製作という2つのハードウェアの改良を予定していた。前者については5月に交換・再調整し、一号機の開発を終了した。また、後者については、12月に観測システムに組込んで、1夜のみ試験観測を実施した。一方、ソフトウェアについては、分光器の安定性を詳細に評価するために、分光器の器機プロファイルの歪みまで考慮して検出器上のスペクトルの位置を測定するソフトウェアを開発し、実験・観測データの解析に用いた。なお、12月に予定してた天文コムの試験観測が全夜曇ってしまったので、解析には、5月および12月に取得した天文コムの実験データ、12月のファイバー・アジテータを使用した観測データ、および従来のスリット観測による比較観測データを利用した。 次に今年度得られた結果について述べると、ハードウェアに関するものとしては、(1)ファブリペロー共振器の鏡の交換によって、装置の安定性や調整の手間は改善したものの、全体的な輝線強度の不足、輝線間の強度の非一様性や時間変動の大きさ、波長基準として利用できる波長範囲の狭さなどの課題が残っており、天文コムの分光器上の位置の測定精度として20m/s程度しか得られないこと、(2)今回開発したファイバー・アジテータの方式ではこの精度ではモーダルノイズの軽減にほとんど効かないこと、がわかった。一方で、従来のスリット観測による比較観測データからは、分光器上のスペクトルの位置の安定性のランダム誤差が1m/s程度であることがわかり、188cm望遠鏡+分光器が実験装置として適していることがわかった。 これらの結果に基づき、天文コム二号機の製作、分光器の高安定化のために大改修を進めている。
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