研究領域 | 核-マントルの相互作用と共進化~統合的地球深部科学の創成~ |
研究課題/領域番号 |
16H01113
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
角野 浩史 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (90332593)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 希ガス / 核 / マントル / 元素分配 / 局所分析 / 高温高圧実験 / 質量分析 / ダイヤモンドアンビルセル |
研究実績の概要 |
本年度は、微小な元素分配実験試料の希ガス分析を可能にするための、希ガス質量分析計用の新規イオン源を開発した。このイオン源はバックグラウンドの水素と炭化水素を低減するためにチタン製で、全ての金属部品が工作精度5μm以下で製作されている。ただしイオン源の換装後の焼き出しや調整などに数ヶ月を要することと、現状のイオン源の性能でも以下の予察的な分析には十分であることから、新規イオン源の質量分析計への実装は見合わせている。 イオン源の開発と並行して、金属-ケイ酸塩メルト間のAr分配実験試料を分析した。米カーネギー地球物理学研究所のC. Jackson博士との共同研究として、鉄とケイ酸塩、液体Arを白金-グラファイトカプセルに封じ、ピストンシリンダーを用いて1700°C、1 GPaの熔融後急冷して得られた、大きさ1mm程度の試料の10~200μm程度の領域を、紫外レーザーを用いて真空中で蒸発させてArを抽出し、希ガス質量分析計を用いて定量した。試料に開いたレーザーピットの体積はレーザー顕微鏡により求めた。得られた(金属相中の濃度)/(ケイ酸塩相中の濃度)で定義されるArの分配係数は1万分の1程度であり、従来の報告値(Matsuda et al., Science 1993)より3桁も低い。また金属相から抽出されるAr量は分析ごとに大きく変動し、ケイ酸塩や気泡などの微小包有物の影響を示唆している。 またより高圧での分配係数を求めるために、希ガス(Ne、Ar、Kr、Xe)を添加したケイ酸塩ガラスと鉄をダイヤモンドアンビルセル中で30 GPaの高圧にし、レーザー加熱により溶融させて希ガスを分配させた。ケイ酸塩ガラスに埋まっている金属相は未だ回収できていないが、ケイ酸塩部分には十分な量の希ガスが含まれており、想定した量の希ガスが系内に導入されていることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規イオン源の実装には至っていないが、低ブランク・高感度のレーザー希ガス局所分析を行うプロトコルの構築はほぼ完了しており、高温高圧実験試料を量産し、データを蓄積する段階に入っている。ArについてはJackson博士によりやや低圧ながら、Ar量を様々に変えて分配実験を行った鉄とケイ酸塩ガラス試料が多数提供されており、分析を待つばかりである。ダイヤモンドアンビルセルと用いた試料の調製がやや遅れているが、系に希ガスを導入することには成功しており、こちらも十分な量の試料を調製して分析することで、核-マントル分離条件での全希ガスの分配係数を決定できるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
上でも述べたとおり、希ガスの分配係数決定についてのプロトコルは確立しているので、高温高圧実験試料を多数調製し、その分析により分配係数のデータセットを充実させていく。一方次年度に進める計画であった、原子炉での中性子照射により希ガス同位体に変換することによる超高感度分析技術を用いた、ハロゲン(Cl、Br、I)や、Mg、K、Ca、Ba、Uといった元素の、金属-ケイ酸塩メルト間での分配係数を希ガスと同時に求める試みは、利用予定であった原子力研究開発機構のJMTR材料試験炉の廃炉が決定したため、もう一つの照射先として想定していた京都大学原子炉実験所のKUR研究炉は6月頃に再稼働の予定であるものの、照射できる試料数が大幅に制限されると予想される。このため地球惑星科学的にも最も重要度の高い希ガスの、核-マントル間での分配挙動を精確に決定することに重心を置きつつ、将来その他の研究用原子炉が利用可能になった場合に備えて、照射試料の希ガス同位体分析用の質量分析計の改良も当初計画通り進めておく。
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