公募研究
地球下部マントルにおける融解現象を理解するために研究を推進した。当初の計画どおり、初年度である本年度は技術開発を中心に計画を推進した。下部マントル相当の高温高圧を容易に発生できるレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル装置において、高温発生に用いる高出力レーザー発振装置と、温度決定に用いる分光測定系を統合制御するシステムを構築した。さらなる高速化、高空間分解能化といった課題は残るものの、当初計画していた実験はルーチンで行えるようになった。開発したシステムを用い、およそ100万気圧、7000ケルビン程度まで、鉄とアルミニウムを含むブリッジマナイトの融解実験を行った。出発物質として、大容量プレスを用いて合成され、結晶構造、化学組成や鉄価数があらかじめ良く同定されたブリッジマナイトを用いた。実験は東京工業大学と、大型放射光施設スプリングエイトにおいて行った。スプリングエイトにおける実験では高温高圧その場X線回折測定も行った。従来広く用いられてきた手法のうち、1.レーザー出力-温度関係にみられる屈曲、2.X線回折点の生成消滅の観察から融点を決定する手法を比較し、実験後回収した試料の微細組織観察も行った。まだ予察段階ではあるものの、従来の手法を無批判に適用するだけでは決定される融点に大きな差異が生まれることが示唆された。また、研究成果としては、下部マントルにおける融解現象に大きな影響を及ぼす酸化還元状態と鉄の価数状態に関する論文を国際誌に2本発表した。より浅部を対象とする流体の電気伝導度測定に関する研究も、国際誌に論文として発表をした。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、研究計画の遂行に必要な技術開発に関してはほぼ完了し、従来用いられている2種類の手法について比較を行うことができた。結果から、従来の手法を無批判に適用するだけでは決定される融点に大きな差異が生まれることが強く示唆された。当初回収試料を分析し、固液間における元素分配係数を決定することまで計画をしていたが、試料のテクスチャーと、試料が被ったであろう熱履歴の関係が予想よりも複雑であったため、そこまで研究を進めることができなかった。一方で、研究成果としては国際誌に主著共著を含め合計7本の関連論文を発表することができた。以上から、当初の計画はおおむね順調に進展していると判断をした。
次年度は、開発したシステムを用いて実験を繰り返すことで課題の完遂を目指す。下部マントル最上部(およそ30万気圧程度)と最下部(100万気圧程度)領域において鉄とアルミニウムを含むブリッジマナイトの融点を決定し、その後より天然に近い系において実験を行う。その際、融点決定と固液元素分配決定実験を同時に行うことを計画していたが、各々個別に行う。一方で、予察的に得られた結果から、従来一般に用いられいてる融点決定手法は試料の系によって大きく結果が異なることが示唆された。そのため、当初予定していなかった温度測定のさらなる高速化と高空間分解能化を達成し、計画の遂行をより確実なものとしたい。また次年度が最終年度であるため、得られた結果を研究成果として発表したい。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 7件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
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