公募研究
本年度では、D-DIA型変形装置の最大発生圧力を向上させ、下部マントルの温度圧力条件下におけるブリッジマナイトの変形実験を可能とするための技術開発を行った。まずは、ジャケッティング構造の2段目超硬アンビルを用いた圧力発生の性能評価試験を行った。その試験の内容は以下のように大きく二つに分類される:①室温高圧条件下における圧力定点を用いた試験:ZnTeやGaPなどの半導体の圧力誘起相転移に伴う電気抵抗変化を利用して、当アンビルにて発生する圧力の測定を行った。用いたアンビルの先端長(TEL)は3mmに固定して実験を行った。圧媒体の一辺は5-6mmの間とした。プレフォームド・ガスケットを用いた場合でアンビルの荷重に対する耐久性が大幅に向上することが確認された。その結果、最大で24 GPaの圧力発生が確認された。②高温高圧下における鉱物の相転移を用いた試験:SiO2やMg2SiO4, MgSiO3などの相境界がよく調べられている系を用いて、高温下における圧力発生効率を検討した。特にMgSiO3系ではアキモトアイトの発生を確認し、少なくとも20 GPaの圧力発生に成功した。しかしブリッジマナイトの合成には至らなかった。これは、高温におけるアンビル先端の塑性変形が原因になっているものと考えられる。また、本年度後半ではcBNアンビルとジュラルミンジャケットを組み合わせた、新型のアンビルを試作し、テストを行った。従来よりcBNアンビルは比較的低荷重(60トン程度)にて破断に至る脆い性質をもっていることが経験的に知られている。しかし今回試作したアンビルは、160トンまでの高荷重に耐えることを確認した。この飛躍的な耐荷重性能はジャケッティングによる効果を示している。この新型cBNアンビルを用いて、20 GPa程度の圧力が発生可能であることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
本年度において、ジャケット構造のアンビルとプレフォームド・ガスケットの併用が高圧力発生に高い効果をもつことが見出されたことは意義が大きい。D-DIA型変形装置を用いた圧力発生として、24 GPaは世界最高記録となるため、今回開発された圧力発生技術は下部マントルの温度圧力条件下における変形実験を達成するための有望な手法となりうるものと考えられる。また、cBNアンビルとジュラルミンジャケットを組み合わせた新型のアンビルの開発に成功したことも意義が非常に大きい。このアンビルはX線に対して透明であるため、放射光施設における高圧実験では必要不可欠となる。特に変形実験では二次元でのX線回折パターン測定が重要であり、当アンビルはそのような測定を可能とするために意義が大きいといえる。ただし、ジャケット構造のアンビルの価格が通常のアンビルよりも割高になってしまった結果、予算の制約上、あまり多くの実験が行えなかったことが問題点として挙げられる。そのため、ブリッジマナイトの合成が本年度中に達成できなかったことが問題点であり、次年度の課題として残された。
次年度では、より圧力発生効率の高い材質をアンビルに用いることで、D-DIA型変形装置を用いたブリッジマナイトの合成及び変形実験を目指す。また、圧媒体の素材を見直すことにより、圧力発生効率の改善を図る。これらの改善を図っても圧力発生効率が改善されない場合は、アンビル先端サイズ(TEL)を現行の3mmから2.5mmに縮小することで、ブリッジマナイトの合成及び変形実験を目指していく。ただし、TELを縮小することにより試料サイズも小さくせざるを得なくなるため、可能な限りアンビル材質及び圧媒体材質の見直しのみにより圧力発生効率の改善を目指す。アンビル材質及び圧媒体材質が最適化された後は、ブリッジマナイトの変形実験及び音速測定実験を試みるといった、D-DIA型変形装置を用いたブリッジマナイトのレオロジー物性測定の実証試験を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Earth Planet. Sci. Lett.
巻: 454 ページ: 10-19
10.1016/j.epsl.2016.08.011