研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
16H01128
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 雄二郎 東北大学, 理学研究科, 教授 (00198863)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機化学 / 有機合成化学 / ワンポット / フロー化学 |
研究実績の概要 |
欲しい有機化合物を少ない工程数で簡便に合成する事は、化学における最重要課題の1つである。申請者は、同一容器中に化合物を順次加えていく事により、複数の反応が順次進行し、目的の化合物が得られるone-pot集積化反応に基づく合成研究を行っている。 2009年diphenylprolinol silyl ether有機触媒を用いた不斉マイケル反応を鍵反応とする、インフルエンザ治療薬タミフルの3ポット合成を報告した。反応に改良を加え、ポット数の減少を検討し、2ポット合成を2010年に、さらにone-pot合成を2013年に報告した。 一方、フロー合成は、再現性に優れた、効率的な物質合成法である。タミフルのone-pot合成は、試薬を順次加えるだけで、反応溶媒の置換がなく、フロー合成に適用可能と考え、本学術領域研究では、タミフルのワンフロー合成に挑戦する。2013年のone-pot法では長時間を要する反応があり、フローに適用するには短時間で完結する反応条件を見出す必要がある。また、有機溶媒に難溶性の反応試剤があり、溶解度の向上した反応試剤に置き換える必要がある。 まず、初年度は、反応時間という観点から、スキームの変更および反応条件の詳細な最適化を行い、できるだけ短時間で完結するone-pot合成法の確立を目指す。連続する3つの不斉点を有するタミフルをone-potで合成すること自身が挑戦的な課題である。さらに短時間で合成を完了するのは、現在の有機合成化学の力量を持ってしてもかなり困難な課題であると考えられる。種々検討を行った結果、ニトロ基の還元反応にマイクロウェーブを使用することにより、全ての反応を1時間という短時間で終了する反応条件を見出した。またマイクロウェーブを使用しなくても3時間で反応が完了する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
申請者は2008年頃より、タミフルの合成に取り組んでいる。また本研究を開始する以前の研究により、1つの反応容器を用い、5工程の反応でタミフルを合成する手法を開発した。全反応時間は約3日である。そこで、この手法をフローに適用する事を考えたが、いくつかの問題点がある。 1工程目:反応基質が反応溶媒に難溶である。 2工程目:塩基Cs2CO3が有機溶媒に難溶である。 3工程目:チオールのマイケル反応が長時間である。 5工程目:チオールのレトロマイケル反応が長時間である。 この問題に対して、先ずはバッチ方式で反応の最適化を行い、解決することを目指した。第一工程の反応の検討として、種々の添加剤の効果を調べた。すると予期に反し、チオウレア誘導体を添加すると、大幅な反応時間の短縮を見出した。この現象の本質を見極めることが不可欠であることから、追加実験を行う必要が生じた。そのため、当初の予定よりも研究は遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
タミフル合成の問題点として以下の行程がある。 2工程目:塩基Cs2CO3が有機溶媒に難溶である。 3工程目:チオールのマイケル反応が長時間である。 5工程目:チオールのレトロマイケル反応が長時間である。 今後、これら第二から第五工程の問題点の解決を行う。これらの問題点を解決し、短時間でのタミフルの合成法を確立する。その後、フロー合成手法を用いて、タミフルのワンフロー合成を実現する。各反応のバッチ方式での最適化の後に、フロー方式での最適化を行う。フロー合成では濃度、流速、流路長、温度を再度最適化する。各素反応をそれぞれ個別にフローで最適化した後、それらを連結しワンフローでの合成を検討する。連続的にフローを行う事で、タミフルの連続的ワンフロー合成法として確立する。
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