欲しい有機化合物を少ない工程数で簡便に合成する事は、化学における最重要課題の1つである。申請者は、同一容器中に化合物を順次加えていく事により、複数の反応が順次進行し、目的の化合物が得られるone-pot集積化反応に基づく合成研究を行っている。 2009年diphenylprolinol silyl ether有機触媒を用いた不斉マイケル反応を鍵反応とする、インフルエンザ治療薬タミフルの3ポット合成を報告した。反応に改良を加え、ポット数の減少を検討し、2ポット合成を2010年に、さらにone-pot合成を2013年に報告した。 一方、フロー合成はバッチ合成に比べ、エネルギー効率、反応速度、収率、安全性、スケールアップ、装置の設置箇所や対応できる反応、条件の制御能に優れるとされる。特別大きな反応釜が必要なく、必要な時に、狭いスペースで大量の化合物を合成できる手法である。申請者の開発したone-potタミフル合成をフローに適用できれば、より実用的かつ大量合成可能な手法になる。 2013年のone-pot法では長時間を要する反応があり、フローに適用するには短時間で完結する反応条件を見出す必要がある。また、有機溶媒に難溶性の反応試剤があり、溶解度の向上した反応試剤に置き換える必要がある。 平成28年度は、反応時間という観点から、スキームの変更および反応条件の詳細な最適化をバッチ方式で行い、できるだけ短時間で完結するone-pot合成法の確率を目指した。その結果、チオウレアの添加、マイクロウェーブの使用等により、1時間という短時間で終了する反応条件を見出した。またマイクロウェーブを使用しなくても3時間で反応が完了する。 平成29年度は、バッチ方式で最適化した反応を、フロー方式に適用した。再度、フローでの最適化を行い、最終的にマルチステップ、ワンフローでのタミフル合成に成功した。
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