研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
16H01135
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
大栗 博毅 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80311546)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中分子 / アルテミシニン / 元素置換 / 骨格多様化合成 / マラリア / 分子設計 / モジュラー式合成 |
研究実績の概要 |
漢方薬の有効成分であるアルテミシニンは,赤血球内に侵入したマラリア原虫をほぼ一掃する薬効を示し,マラリア治療に革新をもたらした。近年では,がんや他の感染症の治療にも有望な知見が報告されている。研究代表者らは,以前アルテミシニンの骨格や立体化学を改変したアナログ群を設計し,短段階(<7工程)合成した。アルテミシニンよりも優れた抗アフリカ睡眠病活性を示すリード化合物を見出し(J. Am. Chem. Soc. 2011),生理活性天然物をモチーフとした“骨格多様化合成”の概念を実証した(Chem. Rec. 2016)。しかし,アルテミシニンの構造を簡略化した第一世代アナログ群の抗マラリア活性は アルテミシニンに遠く及ばなかった。 本研究では、アルテミシニンの6位不斉炭素を窒素に置換した6-アザ-アルテミシニン(第二世代アナログ群)を設計した。天然物骨格の炭素を窒素に置換する“元素置換戦略”により、(1)構築ブロックのモジュラー式集積化、(2)触媒的不斉合成、(3)骨格の三方位に導入した置換基(R1-R3)のバリエーション創出、(4)縮環母骨格の水溶性向上を実現することができた。実際、構築ブロックの連結から僅か3-4工程でペルオキシド架橋をもつ四環性骨格を構築し、アルテミシニンのC3,C6,C9位に非天然型置換基を導入できる触媒的不斉合成プロセスを開発した。C6位にN-アリールアルキル基を導入すると抗マラリア活性が向上することを見出した。6位にN-アリールアルキル基を導入した新しいファルマコフォアの発見を契機として、アルテミシニンよりも優れたIn Vivo 治療効果を発揮するリード化合物の創製に成功した(北里大との共同研究、論文投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、アルテミシニンのC3,C6,C9位に非天然型置換基を導入できる触媒的不斉迅速合成プロセスを実現した。まず、低原子価チタンによる環化で、C9位, C8a位の立体を同時制御する手法を確立した。次に、C3位へ嵩高いtert-ブチル基を導入したアナログを創製することができた。更に、C6位の構造改変により、従前の構造活性相関研究で手付かずのまま残されていたC環部の構造多様化を実現した。C 環部にN-アリールアルキル基を導入したファルマコフォアにより、抗マラりア活性(In Vitro/ In Vivo)が大幅に向上することを見出した。これを契機にアルテミシニンよりも優れた In Vivo 治療効果を発現するリード化合物を複数創製し、論文投稿した。また、上記の知見を踏まえて、末端アルキンを導入したプローブ分子を創出することができた。
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今後の研究の推進方策 |
四環性骨格のC3,C6,C9位に非天然型置換基を導入できる本合成プロセスを基盤として、各種ハイブリッド分子やプローブ分子を設計・合成する。マラリアにとどまらず、他の感染症やがんへの適応を進める。更に、元素置換を他の部位にも適用し、医薬化学合成や合成生物学的物質生産系と相補的な合成プロセスを開発する。
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