研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
16H01139
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
村井 利昭 岐阜大学, 工学部, 教授 (70166239)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ビナフチルセレノリン酸エステル / ラジカル反応 / Grignard反応剤 / カルバニオン |
研究実績の概要 |
本研究ではリン原子に隣接する炭素上にキラリティーを有する中分子化合物群を標的としてきた。そこでこれらを導くために、キラル部位とP=E基を有するカルバニオン種Aの開発と、それらを用いた実用的連続反応プロセスを達成することを、新学術領域への貢献目標としている。ここでリン原子に隣接するカルバニオンである活性化学種Aは、①キラル補助剤を兼ね備えたRO基による高ジアステレオ選択的反応を実現できること、②リン原子上のRO基を、水酸基、アルコキシ基、アルキル基、アリール基やアミノ基に容易に変換できること、③ P=E基のEは、相互変換が容易な酸素、硫黄、セレン原子であり、このスイッチにより選択性を逆転させることができる、などの特徴を発揮させる、さらには付与させることで目的の達成に挑んだ。その結果、ビナフチル基を有するリン酸誘導体を用いた、ラジカル付加反応、あるいは求核置換反応により、リン―炭素結合形成反応の開発を行い、以下の成果を得た。ラジカル付加反応、求核置換反応いずれも、リン原子上に、酸素、硫黄原子よりも、セレン原子が組込まれたほうがより高い反応性を示した。ついで、ラジカル反応の選択性を向上させるためには、ビナフチル基の3,3'位への嵩高い置換基の導入が有効であること、とりわけシスアルケンの場合にその効果が絶大であることを明らかにした。さらにこれらの反応で得られた生成物のリン原子に隣接する炭素上からの脱プロトン化を経由したキラル炭素の構築と、高い選択性を導く方法を確立した。ここではキラル炭素が三置換炭素の場合にはリン-セレン結合が有効で、四置換炭素の場合にはリン-酸素結合が有効であるという、元素依存の反応性制御を達成できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗状況は「研究実積の概要」で述べた通りである。加えて得られた化合物群を基幹化合物とする変換反応の開発、それによって光学活性配位子や有機触媒として有用な有機リン化合物の提供も進展している。とりわけビナフチル基の取り外しで、これまで前例のない光学活性一級ホスフィンを安定に単離することにも成功し、今後様々な光学活性リン化合物を導く基幹原料になることが大いに期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の成果をもとに以下の項目に取組む ・光学活性一級ホスフィンを基軸とする反応開発 光学活性一級アミンは、自然界にも存在し人工的にも莫大な数の誘導体が開発されて、医薬品から機能性材料分野で広く利用されている。それに対してアミンの窒素原子をリン原子に置換えた「一級ホスフィン」の合成例は10種類程度に留まっている。これは、それらを導く方法が欠如していると同時に、これまでの合成の試みが、一級ホスフィンは不安定である、悪臭を放つということを示しているため、ほとんど未開拓な領域に留まっていた。その中、リン原子上の置換基が芳香族置換基のみならず脂肪族置換基でも安定化できる場合も多いこと、一級よりもむしろ二級ホスフィンのほうが安定性が低下する場合もあることがわかってきた。そこでこれらの一般的な傾向を解明すると同時に、様々な光学活性有機リン化合物を導く新しい経路を提供する。 ・薬理活性を示す誘導体の合成 薬理活性が期待されるフォスミドマイシン誘導体の基本骨格への多彩なアルキル置換基の組込みをモデル反応として、フロー系による高効率・高ジアステレオ選択的反応を達成する。ジアステレオ選択性の逆転には、リン原子上の元素スイッチの手法を用いる。すなわちビナフチル基を有するホスホン酸エステルからのLDAによる脱プロトン化、続いてハロゲン化シリル、ハロゲン化アルキルやアルデヒドを、求電子剤として加えることで、対応する生成物を導く。一方でリン原子に隣接する炭素上が逆の立体配置を有する化合物を導くために、P=E基のEがセレン原子である化合物を出発化合物とする。特にここでは、滞留時間R2と反応温度に対する収率と選択性との相関のマップ作成を通して、条件最適化を行う。
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