研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
16H01144
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
大神田 淳子 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (50233052)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | たんぱく質間相互作用 / 阻害剤 / 中分子 / フシコクシン / 14-3-3 |
研究実績の概要 |
低分子創薬が難しいたんぱく質間相互作用(protein-protein interactions; PPIs)に対しては広い作用面の構築に好都合な中分子の応用が注目されているが、一般に細胞膜透過性が低く、細胞内デリバリ技術の開発が求められている。本研究では、反応性低分子間のライゲーション反応により細胞内で中分子を発生させ、リン酸化信号伝達系の調節に関わるたんぱく質間相互作用を制御する手法を開発する。具体的には、標的たんぱく質14-3-3の結晶構造を基に低分子反応性モジュールを合理設計もしくはライブラリ化し、遺伝子組換えたんぱく質を鋳型とするライゲーション反応のin vitro評価、細胞内中分子合成と標的PPIの阻害評価および細胞増殖阻害活性試験を実施し、中分子PPI阻害剤の新たな分子戦略の提案に結び付けることを目的とする。 天然物フシコクシン(FC)は、植物14-3-3たんぱく質とH+-ATPaseの複合体の疎水性間隙に結合し、安定な三者複合体を形成して14-3-3とH+-ATPaseのPPIを安定化することが知られている。14-3-3は真核細胞に普遍的に高発現するリン酸化信号系制御因子であるが、14-3-3機能の変調ががん等の疾病と関連することが明らかにされており、14-3-3阻害剤は創薬シーズとしての可能性が期待されている。そこで、細胞内内在性14-3-3を鋳型とするFCとペプチドフラグメント間のライゲーション反応による細胞内中分子合成と14-3-3信号伝達系の制御を検討した。その結果、アルデヒド含有FC誘導体とペプチド誘導体間のオキシム生成反応により細胞内で14-3-3阻害剤を合成して14-3-3PPIsを阻害し、細胞増殖を抑制することに成功した。本研究の成果は、細胞内中分子合成による中分子PPI阻害剤のプロドラッグ化の可能性を示唆するものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子改変型FC生産系を用いて生合成中間体FC-Jを大量生産し、FC-Jの12-位水酸基の化学修飾によるo-ホルミルベンジル基含有FC-Jを合成した。一方、植物H+-ATPaseのC末端14-3-3結合モチーフのC末端カルボキシル基をアミノオキシ基に、リン酸化トレオニンをアスパラギン酸残基に置換したペプチドを合成した。in vitroにおいて、緩衝液中における両者のオキシムライゲーションに与える遺伝子組換え型14-3-3の効果をHPLCによる反応追跡実験により評価したところ、等量の14-3-3存在下で両者間のオキシム生成反応は顕著に加速し、24時間後には収率90%でオキシム誘導体が生成することが確認された。HEK細胞を用いた実験により、オキシム誘導体は細胞内においてもおよそ40 %程度の収率で生成し、顕著な細胞増殖阻害活性を示すことがわかった。一方、オキシム反応の原料であるFC誘導体とペプチド誘導体、もしくは化学的に合成したオキシム誘導体はいずれも不活性であり、増殖阻害活性が細胞内オキシム生成反応に起因することが裏付けられた。FLAG-14-3-3安定発現株を用いたpull-down実験を行い、オキシム誘導体が14-3-3-cRaf相互作用を顕著に阻害することを見出した。また本系をより生物直交型の反応系として銅触媒を用いないクリック反応による中分子合成に展開する目的で、プロパギル基含有FC誘導体とC末端アジド含有ペプチドを設計し、合成を検討した。FC-JをMSおよびカンファースルホン酸存在下、無水DMF中で4等量の2-メトキシプロパンを40度でゆっくり反応させ、FC-Jのビスアセトナイド保護体を収率61%で得た。保護体に対し、種々の存在下で12位水酸基へのプロパギル基導入を試みたが反応は進行しなかった。現在アジド含有ベンジル基の導入を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
予備実験により、FCの12位水酸基に対するベンジル化反応が進行することを確認したので、H29年度はortho-アジドベンジル基の導入によるクリック反応モジュールの合成を検討する。ペプチドモジュールとしてはダンシル基含有QSYDVペンタペプチドのC末端にプロパギルアミンを縮合した誘導体を合成する。大腸菌から発現精製した組換え型14-3-3たんぱく質を鋳型に用い、両者のクリック反応をHPLCを用いて定量的に評価する。ライゲーション生成物の14-3-3に対する結合親和性をITCと蛍光偏光により定量的に評価し、モジュール構造をチューニングしながらnMレベルの親和性を持つ中分子を得る。良好な結果が得られた場合には、細胞実験に移行し、細胞増殖阻害活性の評価、pull-downアッセイによる14-3-3PPIs阻害評価を検討する。 一方、リン酸化信号伝達系制御の要のひとつである脱リン酸化酵素に対する中分子阻害剤の合理設計を開始する。脱リン酸化酵素の浅い活性ポケットと標的たんぱく質とのPPI作用面を認識する化合物の創製に取り組む。具体的にはセリン・トレオニン脱リン酸化酵素であるcdc25Bに着目する。
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