低分子標的が枯渇した現代医療において、合成中分子を基盤としたたんぱく質間相互作用創薬が広く期待されている。しかし化合物の低い細胞移行性が常に中分子創薬の問題となっており、これらの課題を解決するための斬新な方法論の検討と分子技術開発が求められている。本研究では、リン酸化信号伝達系の調節に関わる標的たんぱく質のPPI作用面を鋳型とし、反応性低分子間のライゲーション反応により中分子を発生させる手法を開発した。 本研究ではまず、天然物フシコクシンとH+-ATPase C末端のペプチド鎖を化学修飾し、14-3-3を鋳型とするオキシム生成反応を検討した。その結果、等量の14-3-3存在下で両者間のオキシム生成反応は顕著に加速して収率90%でオキシム誘導体の生成が確認された。この反応は細胞内で進行し、細胞内で生成したオキシム誘導体が内在性14-3-3の相互作用を阻害して顕著に細胞増殖を阻害することが明らかになった。 次に、より生物直交性に優れたクリック反応の応用を目指し、アジド誘導体および環状アルキン含有ペプチド誘導体を設計合成した。14-3-3存在下でクリック反応を検討した結果、クリック反応由来の二つの異性体が18:1の比で検出された。一方、14-3-3非存在下では加熱が必要であり、14-3-3の鋳型効果により位置異性体選択的に反応が進行するという興味深い知見を得た。このことは、14-3-3が近接効果によってどちらか一方の反応遷移状態を安定化することを示唆しており、有機合成化学的に有用な反応と考えられる。 以上より、中分子PPI阻害剤の新規なプロドラッグ戦略の可能性を示すことに成功した。
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