研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
16H01150
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岩崎 孝紀 大阪大学, 工学研究科, 助教 (50550125)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クロスカップリング反応 / 脂質 / シクロプロパン / アルキル化反応 |
研究実績の概要 |
シクロプロパン含有脂肪酸類の合成: シクロプロパンは脂肪酸の骨格的特徴である不飽和結合の生物学的等価である。すでにcis-オレフィンを自在に導入する手法を開発していることより、本研究ではシクロプロパン含有脂肪酸の合成から着手した。シクロプロパンを導入する上で問題となることは、オレフィンとは異なり、シクロプロパンが不斉炭素を有することである。そこで、アリルアルコールの不斉シクロプロパン化に対応したシクロプロパン含有ビルディングブロックの合成を検討した。その結果、安価はホモプロパルギルアルコールより5段階でシクロプロパンを有し、両端にクロスカップリング反応によりアルキル鎖を導入可能な官能基を有するビルディングブロックを効率よく合成するルートを確立した。 次にニッケル触媒を用いたクロスカップリング反応によりシクロプロパン含有脂肪酸の合成を検討した。ビルディングブロックとアルキルグリニャール試薬とのクロスカップリング反応と続くブロモアルカン酸との二段階目のクロスカップリング反応によりシクロプロパンを望む位置に有する脂肪酸を網羅的に合成できることを示した。 イノシトールリン脂質の合成: EhPlaは炭素数30の不飽和脂肪酸を有するイノシトールリン脂質である。そこで、クロスカップリング反応を利用した脂肪酸の合成を合成ルートに組み込むことによりその全合成を達成した。本研究は慶應義塾大学藤本教授(A01班公募班員)、大阪大学深瀬教授(領域代表)との共同研究として実施した。 不飽和炭化水素のアルキル化による長鎖アルキル鎖の構築: 不飽和化合物のアルキル化反応の検討を行った。その結果、ニッケル触媒を用いることによりブタジエンの二量化を伴ったアルキル化反応を見出した。また、研究の過程で、アレンの異性化を伴ったC-H結合の切断を伴うアルキル化反応を新たに見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
cis-およびtrans-シクロプロパン含有ビルディングブロックを新たに開発した。これまでに、cis-およびtrans-オレフィンの導入手法も確立している。さらに、水酸基の立体選択的導入を可能とするビルディングブロックについても安価なリンゴ酸より誘導可能なビルディングブロックを開発しており、これらを用いたクロスカップリング反応による炭素鎖伸長についても着実に成果が得られている。以上の様に、脂質中の脂肪酸部位に見られる部分構造であるオレフィン、シクロプロパン、水酸基を導入する手法については概ね確立した。また、平成29年度から研究着手を予定していた超長鎖脂肪酸の一種であるミコール酸の全合成研究にも平成28年度に予備検討に着手しており予想を上回る進展が見られた。 不飽和化合物のアルキル化反応に関しては当初想定していたアレンのアルキル化反応を検討した結果、予想に反して異なる様式のアルキル化反応が進行することを見出した。すなわちアレンのハロゲン化アルキルによるヒドロアルキル化反応により炭素鎖の伸長を伴いcis-アルケンが生成すると想定していたが、アレンの不飽和度を保持したまま不飽和結合の異性化を伴いアルキル化された生成物が得られることを明らかにした。 共同研究の成果として、慶應義塾大学藤本教授(A01班公募班員)、大阪大学深瀬教授(領域代表)との共同研究の成果がOrg. Biomol. Chem.誌に掲載された。また、九州大学大嶋教授(A03班計画班員)より触媒の提供を受けるなど共同研究の取り組みも幾つか推進中である。
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今後の研究の推進方策 |
上記の如く当初計画していたビルディングブロックの合成ルートの確立およびそれを用いたクロスカップリング反応によるアルキル鎖の構築については順調に進展しており、今後はその適用範囲拡大に取り組むことにより当初想定した成果が得られると考えている。また、初年度の検討の結果幾つかの問題点も明らかにした。具体的には炭素数30程度までアルキル鎖を伸長した段階で化合物の溶解性が極端に低下することが合成上大きな問題となることを明らかにした。次年度の研究開始に当たってはこの問題の早期解決が必要であると考えている。反応温度や反応溶媒の最適化により問題の解決を図る。 不飽和結合のアルキル化反応に関しては当初の想定とは異なる反応生成物が得られることを明らかにした。見出した反応は、通常の合成反応では困難な炭素骨格を効率よく与えることより、次年度も継続して取り組む予定である。
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