公募研究
当研究室では触媒活性が高く、電気的化学的酸化・還元に対する可逆性を有し、温度耐性も兼ね備えた有機ジカチオン種の合成を行ってきた。さらにそれらをレドックス応答型触媒として用いたバッチでの反応制御も達成している。平成28年度はこれらの反応制御をマイクロリアクターへと展開させることに注目して研究を展開した。触媒反応の開始と停止を触媒量の電気化学的なレドックスフロー系で実現できれば、次の反応を阻害するもののない状態で、後続のフロー系へと導けるのではないかと考えた。まず、本格的なマイクロリアクターを用いて実験を行う前に、炭素棒、塩化メチレンへの溶媒耐性のあるPTFEチューブ、PPコネクタを組み立てることにより自作した簡易マイクロリアクターを使って検討を行った。反応は有機ジカチオン種により効率的な触媒反応が進行することがこれまでの検討で明らかになっている、向山アルドール反応を採用した。この反応系では、気体の発生などの問題が生じたが触媒量の電気量を通電するだけで、50%程度の収率で反応が進行した。続いて新規な電解用マイクロリアクターを設計・外注(株式会社DFC)し、同様の実験を行った。当初は、全体を通して収率が一定しなかったのが、これは発生する気体の影響で電流値が安定せず、電解酸化が定常的に行われていなかったためだと考えた。そこで、安定した電解酸化を可能にするために背圧弁を取り付け、フロー電解を行ったところ、高収率で目的物が得られた。
2: おおむね順調に進展している
上記のように触媒量の電気量を駆動力とする反応をフロー系へと適用することができた。現在、収率の向上をめざして、さらに検討を行っているが、基本的なコンセプトについては初年度である平成28年度で達成できた。また、概要に記した反応とは別に、電気化学的手法によるシアノメチル化反応についてバッチ系での検討も行った。これは、アセトニトリル中で、アルデヒド存在下で電解還元を行うと触媒量の電気量でアルデヒドがシアノメチル化されるという反応であり、これまで数例の報告があるが、再現性に乏しく、より精査な反応条件の検討が必要であると考えられる。この反応は触媒量の電気のみを反応の起動力とする反応であり、反応の集積化に非常に適した反応である。平成28年度は反応条件を一から見直し、電気量を0.2 F/mol(20 mol%の触媒量に相当)とし、陽極にマグネシウム電極を用いて各種アルデヒド類に対して反応を行うと、シアノメチル化体が60~70%程度の収率ながら生成することがわかった。以上の理由により、本研究はおおむね順調に進捗していると考えている。
触媒量の電気量が駆動する反応のフロー系への展開については、電解用マイクロリアクターの更なる改良による反応の効率化をめざすとともに、連続的な反応により反応集積化について検討を行う。アルデヒドのシアノメチル化については、電解反応をマイクロフロー系へと展開させるとともに、この反応についても生成物のシアノメチル部位の連続的変換反応について検討を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件)
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