カビ毒由来の中分子であるボンクレキン酸(BKA)はミトコンドリアのアデニンヌクレオチド輸送担体(ANT)の機能を阻害してATPの産生を抑制することが知られている。したがって、多くのATPを消費するがん細胞に対して何らかの阻害的な効果が期待できる。そこで本年度はマウス乳がん細胞(4T1細胞)に対してBKAを作用させたところ、幡種細胞数依存的、濃度依存的に細胞障害を誘導することが分かった。正常細胞には細胞障害性が低いこと、グルコース消費速度の促進効果、培地中の乳酸濃度の増加が認められたことからBKAによって解糖系が亢進されグルコースが培地中から枯渇し、増殖旺盛ながん細胞特異的に細胞障害が生じたと考えられる。また解糖系阻害剤との併用により、がん細胞障害性が高められた。ヒト膵がん細胞であるPANC-1に対してもBKAと解糖系阻害剤との併用は細胞死を誘導した。 一方、BKAは入手困難できわめて高価なため、系統的な研究、特に細胞試験、動物試験はあまり進んでいない。著者らはBKAの合成研究を進め既に効率的全合成に成功しているが、30工程を超えるため大量供給にはまだ課題がある。そこで構造活性相関研究を進めその結果に基づく合成容易なアナログの開発を進めている。しかしこれまで合成したアナログのがん細胞障害性は極めて低いものであった。BKAおよびBKAアナログは3つのカルボン酸を有し細胞膜透過性が低いと考えられるため、膜透過性の向上のためグルコースをハイブリッドさせたグリココンジュゲートを分子設計した。まず、炭素リンカー中にベンゼン環を挿入したアナログに足掛かりを設け、そこからプロパルギル基を伸ばして2-アジ化グルコースとクリック反応でコンジュゲートした。このコンジュゲートは予備的な細胞試験の結果、非コンジュゲートアナログと比べてがん細胞障害活性が向上していることが観察された。
|