研究実績の概要 |
エラジタンニン類は千を超える天然物を擁するポリフェノール化合物群である。実用を期待できる生物活性を有する中分子領域の化合物も多い。本新学術領域研究では、エラジタンニン中分子をモチーフとした新規ポリフェノール系包接化合物を、化学合成を用いて創出することを目的としている。 中分子領域のエラジタンニンには、2量体以上の化合物が多く、目的の達成にはその多量化を担う構成基の構築法確立が必要である。また、ガロイル基が3個C-C結合したNHTP基には、そのフェノール性ヒドロキシ基の集合状態から、包接作用を示す化合物への展開が期待できる。 当年度は、天然エラジタンニンの重要な構成基である(1)GOD基と(2)NHTP基の合成方法を検討した。どちらの基も、六置換ベンゼンを含むエラジタンニンの構成基で、その合成には立体障害の多い位置でベンゼン環をつなげる、難しい変換を含む。 (1)GOD基の合成研究:エラジタンニンの多量化を担う構成基、GOD基の合成経路を確立した。その合成では立体障害の多い六置換ベンゼンを構築する段階が鍵段階となる。合成では、C-Oジガラート構造をまず構築し、次いで六置換ベンゼン部分を構築した。 (2)NHTP基の合成研究:ガロイル基が3個炭素―炭素結合したNHTP基を含む天然物vescalaginを標的に合成研究を進めたが、途上である。NHTP基は、自然界ではグルコースの2,3,5位酸素にエステル結合して存在するため、合成法検討にはグルコースの2,3,5位酸素にガロイル基を結合させ、そのカップリングを検討した。グルコースの2,3位上のガロイル基のカップリング反応は問題なく進行した。このカップリング後、グルコースの5位に保護基の数と位置を様々に変えたガロイル基を導入し、その酸化感受性の差異を利用した二度目のカップリングの検討を続けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度は、天然エラジタンニンの重要な構成基である(1)GOD基と(2)NHTP基の合成方法の確立を予定していた。進捗状況は、(1)を達成したが、(2)は、予定までもう一歩まで研究を進めたが、途上である。一方、当初予期していなかった成果として、(3)保護基の導入に用いるベンジルイミダートの高純度合成法を発見した。 (1)GOD基の合成研究:GOD基の合成方法を確立した。本合成では、C-Oジガラート合成のビルディングブロックとして、既に報告したオルトキノン化合物の保護基を変更して用いた。幸いにも、この保護基変更はフェノールによるオキサマイケル付加・脱離を許容し、続く還元的芳香環化を経て五置換ベンゼンを有するC-Oジガラート化合物を与えた。GOD基は軸不斉を有するため、sp3中心不斉からの転写を期待して、六置換ベンゼン部分の構築段階には、グルコースから誘導したテンプレートを用いた。すなわち、五置換ベンゼンを有するC-Oジガラート化合物の保護基と酸化段階の変換を経て、その部分構造をグルコースの6位酸素にエステル化した。一方で、GOD基の構成部分であるガロイル基をグルコースの4位酸素にエステル化した。鍵段階となる六置換ベンゼン部分は、CuCl2とn-BuNH2を用いた酸化的フェノールカップリングにより構築した。 (2)NHTP基の合成研究:NHTP基は、自然界では殆どがグルコースの2,3,5位酸素にエステル結合して存在するため、合成法検討にはグルコースから誘導した化合物をテンプレートとし、それにガロイル基を導入した化合物を用い、現在も合成方法を検討中である。 (3)当初予期していなかった成果として、保護基の導入に用いるベンジルイミダートの高純度合成法を発見した。本法では、反応後の分液操作のみで、高純度のイミダート化合物を着色無しで得ることができる。
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