研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
16H01164
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
折田 明浩 岡山理科大学, 工学部, 教授 (30262033)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アセチレン / クリック反応 / アジド / パラレル反応 / エンイン / ピレン / 多形 / 蛍光 |
研究実績の概要 |
本研究では、アセチレンとアジドとのクリック反応およびその関連反応を集積化することを目指す。さらに本法を生物活性機能のハイブリッド化法へ活用することで、バイオ医薬品の実践的合成法を実現する。具体的には、(1)化学的に非等価な複数の炭素-炭素三重結合を有するアセチレンプラットフォームを合成し、続いて、(2)アセチレンプラットフォームと機能性アジドとの連続クリック反応を行うことで、ミサイル療法薬や抗がんワクチンとして機能するハイブリッド分子の実践的創製法を完成する。初年度は、2種類の末端アセチレンと2種類のアジドとを同時に混合する「パラレルクリック反応」を検討し、アセチレンとアジドとの反応性をチューニングすることで、個々のクリック反応の選択性を大きく改善する手掛かりを得た。また、原料となるアセチレン誘導体の合成過程において、エンイン誘導体の簡便な合成法を確立し、得られたエンインの置換基が紫外可視吸収および発光スペクトルに及ぼす影響を明らかにした。さらに、これらの遷移金属触媒を用いたカップリング反応で有機スズ反応剤を用いた場合には、生成物中にppmオーダーでスズが含有されることが頻繁に起こるが、カラムクロマトグラフィー精製を行う際に用いるシリカゲルの水分量を調製することで、効率良く含有スズを除去できることを見出した。本プロジェクトでは複数のアセチレンを分子内に有する原料を用いて複数のアジドとのクリック反応を行うが、その原料合成の過程で、エチニルピレン誘導体が多形を示すこと、また、様々な物理的刺激に応答して相転移が起こることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では反応性の異なる複数の末端アセチレンとアジドとの選択的なクリック反応を行う。これまでに、分子間反応を検討し、2種類の末端アセチレンと2種類のアジドとを同時に混合する「パラレルクリック反応」では、アセチレンとアジドとの反応性をチューニングすることで、個々のクリック反応の選択性を大きく改善できることを示しつつある。また、同一分子内に、反応性の異なる2種類のアセチレン部位を有するジインの合成を確立し、現在は高選択的なクリック反応に向けて条件検討を行っている最中である。一方、高歪み型環状アセチレンを用いた2種類のアジドとのクリック反応をバッチで行った際には、複数のクリック生成物が統計学的分布に従って得られた。これを回避し高い選択性でクリック反応を行うためにマイクロリアクターを用いて反応条件の最適化を検討したが、残念ながら、これまでのところ、大きな改善はみられていない。一方、原料合成の過程において、いくつかの新しい知見を得ることができた。例えば、これまで実用的な合成法の知られていなかった芳香族プロピン誘導体の簡便合成法、および得られたプロピンを用いた芳香族エンイン誘導体の合成法を確立した。また、得られたエンイン誘導体と分子構造と光学的特性との構造相関を明らかにすることができた。さらに、ピレンをテンプレートに用い複数のアセチレンを有するピレン誘導体の合成過程で、エチニルピレン誘導体が多形を示すこと、また、様々な物理的刺激に応答して相転移が起こるという新現象を発見した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、分子間「パラレルクリック反応」の適応範囲拡大に努めるとともに、更なる選択性向上に努める。また、分子内「パラレルクリック反応」では、反応性の異なる2種類のアセチレン部位を高選択的にクリック反応へ利用できる反応条件を設定する。また、高歪み型環状アセチレンを用いた2種類のアジドとのクリック反応では、より厳密な温度制御やより高速かつ迅速な混合を可能にするマイクロミキサーを用いることで選択的パラレルクリック反応を実現する。高歪み型環状アセチレンは複数の反応工程を経て合成が達成されるが、従来法では中間体を再結晶やカラムクロマトグラフィーを用いて精製することが避けられなかった。そのため、反応条件検討に反応スケール等の制約を受けやすかったが、こうした問題点を回避するために、より簡便で大量合成に移行可能な合成法を新たに開発中である。ピレンをテンプレートに用い複数のアセチレンを有するピレン誘導体をの合成し、これが多形を示すこと、また、物理的刺激に応答して相転移が起こるという新現象を発見したが、本現象の一般性を現在検討中である。具体的には様々な立体的なサイズの置換基を有する誘導体を合成し、蛍光測定を行うとともに、外部刺激による応答性を調査する。また、一連の誘導体はこれまでその存在が知られているものの、あまり研究の進んでいないFlying-seeds型液晶を発現する可能性があることから、専門家の意見を取り入れながら研究を進める予定である。
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