公募研究
太陽地球惑星系科学において科学衛星観測は、宇宙プラズマを直接測定するのに有効であるが、「その場(in situ)」1 点の観測ゆえに、各種プラズマ・電磁現象の時間・空間変化の識別や、空間全体の巨視的変動の把握が極めて難しい。本研究は、ELF/VLFプラズマ波の伝搬特性を活用することで、限られた数の科学衛星による疎な観測情報から地球磁気圏プラズマ環境の全体像を掌握する技術を確立する。そのために、(1)磁気圏探査衛星で測定したELF/VLFプラズマ波の伝搬方向やポインティングベクトルなどの伝搬パラメータを網羅的に求める解析ツールの整備、(2)プラズマ波の伝搬通路を理論計算するレイトレイシング法と観測データの融合による電子密度分布やイオン組成比等の磁気圏空間構造を推定する手法、を開発する。初年度の主な成果は次のとおりである。あけぼの衛星は1989年から2015年までの長期にわたり、地球近傍プラズマ圏を連続観測し、地上からの人工VLF信号や雷起源ホイスラ波などを多数計測している。これらの波は、電離層やプラズマ圏内の電子密度および背景磁場に依存して、その伝搬特性が特徴づけられる。そこで、あけぼのが長期観測した地上からのオメガ信号を自動検出する手法を開発し、電離層・プラズマ圏内における波動の伝搬特性のローカルタイム・季節・太陽活動度などを明らかにした。一方、「波動分布関数法」をベースに申請者らが考案した波の伝搬パラメータ求解法は、ノイズに頑健で、平面波近似が成り立たない観測事例や広がった波源からの到来波にも適用できるという特徴がある。平成28年12月に打ち上げられた内部磁気圏探査衛星あらせ(ERG)には、申請者らが担当するプラズマ波動・電場観測器(PWE)が搭載されており、現在、同観測器で計測したプラズマ波の解析に、同手法を適用する準備を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題で掲げる2つの手法の開発計画のうち、初年度は(1)の波動の伝搬パラメータを求める解析ツールの整備に重点をおいて研究を遂行した。あけぼの衛星が計測したオメガ信号の自動検出法は、電離層・プラズマ圏内のVLF波動から、網羅的に波動の伝搬パラメータを導出する有効な手段といえ、同解析ツールとの組み合わせで、波動の伝搬特性の定量的解析、さらには次年度に予定しているレイトレイシング法による理論計算との比較・研究に大いに有効と考えている。また、申請者らが設計・開発したあらせ衛星搭載プラズマ波動・電場観測器(PWE)は、伝搬パラメータ解析ツールとの親和性を考慮して、波形観測やスペクトルマトリクスなどの観測機能が実装されている。同PWEは初期運用において、きわめて良好なデータが取得できることが確認できており、今後のデータ解析で数多くの成果が得られることが期待できる。以上より、今年度の計画はおおむね順調に進展しているといえる。
平成29年3月末からあらせが定常運用に移行したことを受け、あらせ搭載PWEで観測したコーラスをはじめとするVLF帯ホイスラーモード波に波動分布関数法を適用し、その有効性を実証する。また、イオンモードの波動は、in situのイオン組成比を反映した伝搬特性を有するため、イオンモードの波への波動分布関数法の適用についても検討する。並行して、レイトレイシングを用いた波の伝搬通路の理論計算と観測結果を融合することで、第2の目標に掲げたプラズマ波の伝搬特性から磁気圏内の電子密度やイオン組成比などの空間構造推定を行う解析法の開発にとりくむ。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (28件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件)
International Journal of Advanced Computer Science and Applications
巻: 7(10) ページ: 67-74
10.14569/IJACSA.2016.071009
巻: 7(12) ページ: 1-6
10.14569/IJACSA.2016.071201